FN74号
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たと考えられているそうです。ちなみに私は、水に飛び込んだときに「ゴトン」と重い音がするイメージから「ごとんべえ」の名がきたのではないかと思っていました。「ミュージアム都留」の職員のかたにもうかがい、「ごとんべえ」の話になったときに「暗くなるまで『あ、あそこにもごとんべえがいる』なんて言いながらよくごとんべえを捕まえにいったよ。最近じゃあんまり見かけないけどね」ということをお聞きしました。また、都留市つる在住の遠えんどう藤静しずえ江さん(79)は、戦時中にタンパク質を摂るために、焼いて食べていたとのこと。私は最初、「ごとんべえ」と聞いたときに何を指しているのか想像もつきませんでした。でも、都留市の人々は「ごとんべえ」と呼ぶのが当たり前という感覚でお話をされていて、「ごとんべえ」が昔から馴染みのある生きもので、そう呼ぶのが人々の共通認識だったことがうかがえました。都留市の方言を調べて、私は特定の名詞にしか「べえ」をつけないことが一番印象的でした。どうして特定されているのかを探っていくと、それらの生きものは愛着をこめて呼ぶほど、地域の人々にとって生活のなかで身近にいる生きものだったのではないかという考えに辿り着きました。*私は、地元で暮らしているときはあまり方言そのものを意識していませんでした。でも、都留市で暮らすなかで、地元では当たり前のようにつかっていた言葉が相手に伝わらなかったときに初めて、これって方言だったんだと、気づいた場面が何度もあります。その発見は、地元を離れたからこその出会いでした。お二人の話によると、だんだん方言をつかう人が少なくなってきているようです。テレビやラジオなどが普及したり、地域外の人との交流が盛んになってきたりして、共通語がつかわれるようになったからだそう。たしかに、共通語は相手に内容を伝える手段として便利な言葉です。でも、だからといって方言がつかわれなくなるのは、その土地ならではの暮らしかたが見えなくなるようで寂しい気がします。方言は、その土地に暮らす人たちだからこそ通じ合う「合言葉」であり、その土地で愛着をもってつかわれている「愛言葉」でもあるのだと思います。甲府市都留市国中地方郡内地方笹子峠山梨県の地図ごとんべえのイメージ図。内藤さんには、10㎝ほどの大きさでイボがいっぱいあるものが「ごとんべえ」だという印象があるらしい内藤さんから方言についてうかがう(撮影:香西恵)15
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