FN74号
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19た。少し角度を変えるだけでまったく違う表情になるのがとても美しく、しばらく目が離せなかった。このような多彩な変化が、色への執着の強い山本さんをステンドグラスの道に引き込んだ要因の一つなのかもしれない。不思議な体験「トントントンってすべてが上手くいって、誰かに動かされている感じだった。初めてだった、あんなに空気の流れを感じたのは。初めて塩山駅についた時の事、すごく鮮明におぼえてるんだけど。結構天気も良くって、さてどっちに行けばって時に、小学生ぐらいの男の子二人が自転車で走ってきて、『こんにちは』って突然言ってくれたの。後でよくよく考えてみると、今時あいさつしてくれることなんて少ないじゃん。そう声かけてくれた時から、すごく気分も落ち着いて。そこから奇跡的な物件の巡り会いや、本当は断られるはずだったステンド修行先の面接もうまくいって、本当にあの日は不思議だった。私ここでやっていけるなって思えた」 私が山本さんと会うために降りた駅のことだ。私は何気なくそこを降りた。でもそんなお話があったと思うと、さっきまで気にも留めていなかった場所が、ただの風景とは違った、特別な思いがある場所になった気がした。何気なくステンドグラスを並べるときに見せた真剣な表情の山本さん魔女になりたかった しばらく考えるような素振りを見せたあと、山本さんが話し始めた。「ちいさいころの夢は魔女になりたかったの。なれるわけないんだけど、魔法をかけるような仕事をしたいって思って。色を使って作って生み出して。人間の手なんだけど、魔法でも何でもないんだけど。ただの一枚の色ガラスからちょこちょこ手を加えていって。それがお客さんの心を癒したりとか、感動を少しでも与えられたら魔法みたいなことじゃない。そういうので多分ステンドグラスに行きついたんだと思うんだけれど」 魔女になりたかった女性の作るステンドグラス。なんて素敵なんだろう。たしかに魔法ではないけれど、そこには人の気持ちを動かしたいという強い意志が感じられる。ステンドグラス作家になるまでの経緯、魔女になりたかったという夢。現実であるけれどもどこか日常と違うような、不思議な感覚で取材をしていた。 取材を終え、工房のガラスドアを開いて外の世界へ。車の音が大きくなる。「ああ、戻ってきたんだ」という感覚がした。工房のなかは今までに感じたことのない雰囲気の場所で、とても心を惹きつけられた。なぜだろう。ゆったりとした、独自の世界。作品も、工房も、とてもきらきらと輝いてみえた。山本さんはもちろん、あの空間一つひとつのものに、何ものにも流されない強い意志のようなものを感じる。自分が自分であることに迷いがないようなその輝きに私は惹かれたのだ。もとの世界に戻るのがもったいないような、惜しいような気持ちを抱いて工房をあとにした。
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