FN74号
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33手くなってほしいという思いが伝わってきた。声 稽古が終わり、迎えを待っているのか学校の宿題をしていた小学校6年生の女の子に話しかけてみた。 私は左利きということもあり、入会をためらいました。書道を始めるまで字がとても汚くて、書くことがすごく嫌いでした。今では右でしっかりとした字を書けるようになり、いろいろな大会で賞をとるようになりました。普段書いている字も上手くなって、学校で「字、上手だね」って言われるのが嬉しいです。私は今、書道がとっても楽しいし、大好きです(*)。 女の子を見たとき、右手で字を書いていた。元は左で書いていたとは思えない、整った字。今彼女が書いている字は根気強く指導した菊地さんと彼女の努力の結晶なのかと、つい彼女の宿題を覗き込んでしまった。 稽古の途中に失礼して、小学校の先生をしていたという女性にお話をうかがった。 私が入会したのは大人になって小筆を使う機会が増えたのですが、小筆を上手く使えなかったのが理由です。この教室にお世話になるようになって、大きい筆できちんと書けないと小筆も書けないことに気づきました。入会して間もないころは、字が上手く書けなくてくじけそうになりました。最初に習う「一」という字が書けなくて。次に「三」という字を習って。でも書けなくて。私が教師をしていたころは、子どもたちは「一」や「三」がどうして書けないんだろうって思ってました。大人の感覚では書けて当たり前なんですね。でも、自分がその立場に立ってみると書けないんですね。人の書く姿を見ているだけでは書けないんです。実際にやってみないと。ああ、今日はお習字の日か……って、構えて行くんですよ。でも書けない。その繰り返し。一年たってからは自分の気持ちもすごく落ち着いてきて、二年目に入って、投げ出さないで頑張ろうって思って、もう三年目。自分の気持ちも姿勢も変わってくるんですね。もう書道は私の生活の一部なんです。 女性は、菊地さんは学校では教えないようなあいさつや姿勢、そのほかの面倒までも見ているのだと、ときおり菊地さんに尊敬のまなざしを送りながら語ってくださった。 ありがとうございましたと、稽古が終わって教室を出ていく子どもたちとすれ違う。教室の隅で学校の宿題をしながら迎えが来るのを待つ子どももいる。礼儀作法や姿勢など、菊地さんが子どもたちに伝えるものは書道だけではなかった。 ◆私が以前通った書道教室はどうだっただろう。方法は違えど、飽きさせない、励みのある、なにより技術につながるたくさんの工夫に満ちていた。菊地さんが生徒にたくさんのことを教えていたように、私も先生に教わっていた。昔の自分は書道だけを習っているつもりでいたが、それだけではない、たくさんのことを教わっていた。今の自分が気づいたことだ。書道教室への懐かしさから訪ねた「慶明会」は私に今まで気づきもしなかったことに気づかせてくれた。何か行動を起こさないと気づけないこともあるものだ。私が今回書道教室に行ったように、いつもとは違う、もっと別のことをしてみないと。何かに「気づく」ための出来事が待っているのだから。(*)『月刊書道誌 2012.7 10号』より一部抜粋したものとインタビューの内容を含めて紹介しています。 背景字は筆者によるもの。「書」という字を行書体で書いています。
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