FN75号
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13地域に密着した博物館ではそれと同じくらい大切なことがあります」 地域に密着した博物館の学芸員に求められるものとは、いったいなんだろう。 森屋さんは続ける。「今年7月から9月にかけて実施した『プレ甲かいき斐絹展』。これが一番いい例ですね。じつは甲斐絹を扱った企画展は、私がミュージアム都留にやってきた7年前ごろから地元のかたや職員のかたとのお話に挙がっていました。けれど市内に機はたや屋さんはあまり残っておらず、博物館でも甲斐絹に関する資料をほとんど所蔵していなかったので、資料は簡単に集まるものではないと考えられていたのです」。 ではどうやって実現したのですか、と私がお聞きすると、森屋さんは次のようにお答えしてくださった。「最近になって市民のかたとともに活動する機会が増えていきました。そこで市民のかたに、ご自宅に甲斐絹はありませんか? 甲斐絹の展示を企画しているのですが、とお尋ねしたら、うちにあるよ、いや、あたしの家には3枚あるよ、と皆さんが快く甲斐絹をご寄贈してくださったり、またお貸ししてくださったりしたのです。最終的には展示室内には収まりきらないほど集まりました。地域のかたとこまめにコミュニケーションを図ることで、『プレ甲斐絹展』は実現させることができたと思います。学芸員にとって重要なのは、地域のかたとしっかり関係を築いていくこと。これに尽きます」。 今後も市民のかたとともに博物館活動をおこなっていきたい。森屋さんが最後におっしゃったこの言葉は、学芸員の仕事が人と関わることで成り立っているものだということを表しているように感じる。 思えば、興味をそそられる展示や行事が開催されるたび、私は博物館へと足を運んできた。あのころはそれほど意識していなかったけれど、私が目にしてきた展示や行事は森屋さんのような学芸員によって支えられていたのだろう。研究をしている人に限らず、市民や企画に興味のある人と協力して、展示や行事をつくりあげていく。それが学芸員という仕事だった。 これまでは博物館で見かけたり、本を読んで知るだけだったりした学芸員。その仕事の内容は資料や展示品を扱うだけでない。人との関わりという目に見えないこともていねいに扱う学芸員のその姿に、私は強く惹かれた。身振り手振りで展示物の説明をする森屋さん『プレ甲斐絹展』のポスター

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