FN75号
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15 自然に近づくことは「お手軽に」というわけにはいかない。1回訪れただけで、珍しい生きものや決定的な瞬間に立ち会えることなんて、めったにない。じっさい大幡川では、川のなかを覗きこんでも石をひっくり返しても、生きものを見つけられなかった。川へ行けば何かに会えるものと考え、ただ行動していたけれど、それだけでは駄目なのだと反省した。 しかし振り返ってみると、生きものという対象を追うばかりが、自然との関わりかたではないことに気づく。川の広さはどれくらいか、流れの速さや音は、手で触れた水の冷たさは、川原のようす、岩石の大きさ、川に下りるまでの過程……。都留の川を訪れて初めて知ったことは、どんなに小さなことであっても私のなかに積もっている。出会えなかった、という落胆さえも一つの経験だ。 見たいものだけを追って「何もない」と嘆くうちは、そこにあるものは見えてこない。夏と比べて、生きものが影をひそめる秋だからこそ、わかったことだ。そこで味わう景色、匂い、音、温度、感触を、取りこぼさないようにしたい。そうして蓄えてきたものが、また次の新しい出会いを導いてくれると確信している。川原から下流を望む川底をさらって見つけたアブラハヤ水に揺れるバイカモ川縁から上流を望む流れが速く油断をするとすぐ流されてしまいそうだ。川底にはあまり大きな岩はなく、小石や砂がみっしりと敷き詰められているため、歩きやすい柄ひしゃくながしがわ杓流川11月7日川幅も河川敷も広さがある大きな川だ。ほかの川に比べ流れが穏やかで、少々深さのあるところでも容易に足を取られることはない。川の端にかぶさるように草が生い茂っているところは、生きものの隠れ家であり絶好の採取ポイントになる鹿ししどめがわ留川10月31日

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