FN75号
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25なものや、きたないもの、生きものにとって有益なものや、害のあるものも選ぶことなく一緒にして流れていきます。そして、流れのなかでさまざまなものと溶けあい、まきこみ、岩をもやわらかくしてしまう水をみて、柔軟性を感じました。  境内のお墓へ続く細い道に、水みずくみば汲場という案内があります。そこに流れている水は地下から汲み上げた水と湧水です。私はたびたびかよってはそこで水を飲み、ペットボトルに水を汲んで家に持って帰ります。永寿院に湧き出す水はほんのりと甘みがありました。湧水でご飯を炊くと、水道水よりご飯の甘みが増すような気がします。また水汲場では、水が流れている場所にワサビが生えています。そこに生えていた植物がワサビだと知ったのはつい最近で、ある日たまたまワサビが水に流れていたのを見て気づき、この何気ない発見に胸が踊りました。 湧水はお寺の裏にもあります。この場所は湧き出す水量が一番多く、小川となって別の方面に流れていきます。湧水近くの土はふだん感じることのないやわらかさでした。水が湧き出る場所に行くと、いつも土が気になります。湧水の場所に行くことで土、水の味、周りの植物、人の生活などが目にはいります。水をみつめる自分自身を流れる水通して、水がたくさんの存在とつながりを持っていることに気づきました。 富士山に降った雨が土の隙間を通り、鉱物を溶かし込み、永寿院に辿り着く。そこでまた岩を溶かして流れてゆく。湧水地の周りでは、湧水が植物や木々のなかを巡る。また、水を飲むことで私のからだを循環します。水が流れていくなかで、生活排水や洗剤、落ち葉など、そこにあるさまざまなものを選ぶこと無く一緒に流していきます。そうして水は私の知らない場所を流れ続けます。 永寿院の湧水を見ることで、水がさまざまなものを巡り、とどまることなく流れ、循環し続ける姿を想像できました。水が植物や木々、人の命の源となり、生命の流れをつくっていることを実感し、水の存在感が私のなかで大きくなりました。あらゆるものを巡り巡ってきた水が、私のなかに流れていると思うと、なんだか地球上のさまざまなものと水を通してつながっているような気分になるのです。水    椛澤碧(比較文化学科2年)=文・写真 ワサビが生える湧水地。丸い葉はわさびの葉です池に流れる湧水。溶岩を侵食していますお寺の横にある湧水地。周りに仏像が3体あるので、 そこへ行くと一人ではないような気持ちになります右上)右下)左)

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