FN75号
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参考文献:岡俊彦編『学習科学図鑑 花(園芸植物)』  学習研究社/2006年上:葉の表面。近くで見ると無数の毛が生えていることがわかる右:写真下がコンフリー。夏場には雑草に埋もれるようにして生えていた(2012.11.7)きさは、幼い自分の掌よりずっと大きい。そういえば摘みとった葉は、気を抜いて少しでも強く握りしめるとちくちくと刺さった。ずっと食べ続けてはきたものの、すっかり忘れていた幼いころの記憶。触覚の記憶だ。感触が記憶を呼び覚ますなんてことがあるのだ。呼び覚まされた記憶は新しい発見のように自分のなかに浸透して吸収される気がする。 なかでも大きな葉の裏を覗き込んでみると、一匹の青虫が葉の陰に隠れるようにひっそりと丸まっている。大きい葉ほど大小さまざまな穴がいくつも開いているが、その穴を開けたのはこの青虫なのだろうか。葉に穴が開いているのは当たり前のことだと思っていたが、穴が開くにはとうぜん開けたものがいるはずだ。でも私はその青虫を見るまでそんなことを考えたこともなかったのだと気づく。当たり前だと思っているからこそ見落としていたり、考えていなかったりすることがあるのだ。 今では出かけるとき、それがまるで友人かなにかであるかのようにようすをうかがう。夏場まで存在にすら気づかなかったのに、アパートを出るとまず最初に目が行くものになった。天気がいい日にはコンフリーの表面の毛が光を反射してより白みを帯び、きらきらと輝いていて美しい。ただ横を歩いて通り過ぎていたころには気づかなかったこと。コンフリーに近づいたから分かるようになったことだ。時間があるときには、たびたびコンフリーの葉を摘まんでみるようになった。寒くなるにつれて葉が着々と厚みを増し、固くなっていく。夏場だけに食べ物としてのみ認識するのではなく、この肌寒い時期に見たから分かった。 今までただの食べ物として見ていたコンフリーとの距離がぐっと近づいた気がした。その対象が私に何かの働きかけをしてきたわけではない。それでもこうやって一つひとつのものに集中して、私が知ろうとすると新たな物事が見えてくる。今回はアパートの庭の一角でのことだ。ぐるりとアパートの庭を見渡すだけでも名前も知らない植物がたくさんある。植物だけではなく、新たな発見は周りにいくらでもあるのだと思うと楽しみで仕方がない。9

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