FN76号
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FIELD.NOTE1010あんまりうまく話せないんだけど、と照れ笑いをしながら開口一番にそうおっしゃるのは、小野神楽保存会、代表の武たけい井邦くにお夫さん(69)。武井さんはガッシリとした体つきで、小野神楽に関して一言ひと言に熱意をこめて話されるかただ。2月6日、本学最寄りの喫茶店「バンカム・ツル」で小野神楽保存会についてお話をうかがう。 小野は、本学側からみて鍛冶屋坂トンネルを越えたところに広がる地域だ。もともと小野神楽保存会は30年前からあるのだが、時の流れとともに、年々参加者が減っていった。これで終わるのはもったいない、と思った武井さんたちは、もう一度、小野神楽を活気づけるために、平成17年に有志を募って保存会を再結成した。それから、神楽を長年やってきた80代の方々に指導をお願いした。彼らのことを会員の方々は「師匠」と呼んでいる。 同じ年に小野熊野神社でおこなわれた大祭りで、再結成をしてから初めて小野神楽を披露した。そのときは300人近くの人が見に来たという。また、大祭り以外でも小野神楽を披露する機会を増やしていった。介護施設で披露したときは、施設にいたみなさんが、涙を流しながら見入っていたとのこと。「きっと懐かしかったんだろうね。あのとき、あ、やってよかったってやりがいを感じた」。武井さんは誇らしげな表情でおっしゃる。「心の文化財」 神楽は男性がやるものだといわれているが、小野神楽は老若男女問わず参加している。「乳のみ子から子ども、次の世代を包み込みながらやっていけば、より豊かな保存会になると思うんだよね」と武井さん。保存会の人たちはみんな、家族のように温かい絆で結ばれている、と胸を張って武井さんはおっしゃる。誰でも受け入れてくれる人たちがいるからこそ、参加しやすい環境が築き上げられていくのだろう。 お話のなかで、武井さんが2月末で代表を交代することがわかった。小野神楽保存会を自分のことのように話す武井さんの姿を見て、これからも武井さんが引っ張っていくのだろうと思っていた私は驚いた。「自分が構想していたことはやりきったから、そろそろ次につなげるために交代しようかと思って」。これからは裏で支えていきたいと付け足す武小野神楽の練習風景。夜8時~9時まで中小野公民館で練習している(2005年撮影 写真提供=武井邦夫さん)都留市の郷土芸能に神かぐら楽がある。神楽のことをよく知らなかった私はいまひとつイメージができなかった。さっそく『都留市史 通史編』を調べると、「都留市の祭りを特徴づける基本的な要素」という気になる一文を発見。その神楽を今でも活発におこなっている地域のひとつが小野だ。前澤志依(国文学科3年)=文・写真FIELD.NOTE

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