FN76号
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11小野熊野神社の入口。9月9日にここで大祭り(秋祭り)がおこなわれる(2013.02.15)井さんは、寂しさと次へつなげられる安心感が混ざり合った表情をしていた。活気づいてきた保存会を、次の世代へ引き継ぐことで、さらに続けてほしいというのが武井さんの願いだ。その願いの源はどこにあるのだろうか。 2月16日、小野神楽保存会の新年会にお邪魔した。そこで、武井さんを含む7名の会員の方々に、どうして小野神楽を続けているのかを質問したところ、「子どものころから思い入れがあるから」との答えが返ってきた。さらに、慣れ親しんできた郷土芸能だから子どもにも伝えたいと語る。 現在は子どもの参加者はそれほど多くなく、あまり興味をもってもらえないという悩みがある。ちいさい子どもは、獅子の顔を怖がってあまり近づこうとしない。そこで、本学で毎年5月に催される「つる子どもまつり」などの行事に積極的に参加し、小野神楽に興味をもってもらおうと活動をしている。「小野神楽が国や県の文化財にならなくても、小野や小野に暮らす人たちの心に残ってくれればいいと思ってんだ」 そう語る武井さんは、小野神楽のことを「心の文化財」と例えていた。 郷土芸能は、見て、体験をして記憶に残るもので、伝えようと意識して伝えなければ途絶えてしまうものでもある。聞けば、小野で神楽をやるようになった時代はよくわかっていないという(『都留市史 通史編』によれば、江戸時代にはすでに祭祀のときに舞われていた)。遠い昔におこった文化を、今を生きる人たちがつなぎとめている。それをまた次へとつなぐことで、古くから根付いてきたその土地ならではの伝統が生き続ける。 武井さんによると、大祭りでは神楽が披露されるだけでなく、地域の方々が中心となって出でみせ店を開き、訪れた人たちを楽しませてくれるという。地域全体で小野神楽を盛り上げている。武井さんをはじめ、小野神楽保存会の方々に会って、小野の人たちが小野神楽にたいして、熱い思いを抱いていることを知った。小野神楽は、昔から引き継がれてきた、伝統ある芸能だから、という理由だけで受け継がれているのではない。小野神楽をきっかけにして、小野に暮らす人たちを一人ひとりつないでくれる役割もあるのだ。 それに、継がれていくことで「小野といえば昔から神楽がある」と、その土地の特徴にもなる。小野を離れても、神楽が小野のことを思い出させてくれる。世代をこえて共通の話題をつくることもできる。だから小野の人たちは、小野神楽の伝統が途絶えることを「もったいない」と思うし、子どものころからの強い思い入れがあるのだろう。そういう思いを知った今では、私も小野神楽がこれからも続いていってほしいと願うひとりだ。 次に小野神楽が披露されるのは、4月の第2日曜日に、中小野の蚕こかげ影神社でおこなわれる春祭りのとき。雪解けの合図に合わせて、祭囃子の音が聞こえる季節はすぐそこだ。おもに小野で4月の春祭りと9月の秋祭り(大祭り)に舞われる神楽のこと。神楽とは、収穫の秋に、五穀豊穣のお祝いで神様に感謝して、笛の音に合わせて舞いを踊り、太鼓を叩き、歌をうたうこと。都留市で神楽といえば獅子をかぶって舞う神楽(獅子神楽)のことをさす。小野神楽保存会の方々によると、小野の神楽は力強い舞いを踊るそう。小野神楽とは【参考文献】 『都留市史 通史編』      都留市史編纂委員会/1996年

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