FN76号
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41これが自身を「なんでも屋」と語る所ゆえん以なのだ。こまるなんでも屋さん 「クラブ棟のトイレ、行ったことあるか?」ある日隠れ家にお邪魔すると、中井さんが尺取虫のような眉毛をさせて聞いてきた。どうやら大学の裏山にある学生用のクラブ棟のことらしい。「ひっどいよ、あそこは使いかたが本当にひどい」。水詰まりの修理のためにトイレにいったところ、あまりの汚さに修理の前に掃除をしなければならなかったという。 「人間は自分のモノだと大事に扱うのに、公共のモノだとどうしてこうも大事にしないんだろうなぁ。なんだか悲しくなるよ」。つぶやく中井さんの背景に、学生たちの行き交う姿が小さく揺れていた。思いやりの仕事 中井さんと日々の仕事の会話を交わすようになって、雪のかかれたキャンパスや、修理された場所から、ふと中井さんの働きを想像している自分がいることに気づく。人が歩きやすいように、使いやすいように、日々せっせと働くその姿。中井さんの仕事はそんな、人やモノを思いやる仕事だと思う。その働きを身近に感じることで、私にとって今まで無機質な空間であった大学が、以前と違った質感を持って接してくるようになった。それはモノを思いやる以前の、モノの持つ弱さを知れたからかもしれない。 決して表立って見えては来ないけれど、大学生活のなんでもない景色は、中井さんの働きによって支えられていた。 中井さん、なんでもない景色を、いつもありがとう。◀隠れ家の机の上にある修理中の壁時計。「直す」ことが趣味でもあるのだ山本由樹恵(社会学科3年)=文・写真41みたい」「床のタイルが壊れてて危なくて……」あちらこちらからオファーがかかる。おうちで電気関係の仕事をしている中井さんは工具の扱いも手馴れている。「ほかに誰もやらないからしょうがない」。そう言って手袋をはめて工具セットやコードをもって仕事に出ていく。 「あー疲れた疲れた、いやになっちゃうよ」。そう言って隠れ家に帰ってくるときもある。決して楽ではない体力勝負の仕事も多くこなしているからだ。なんでも屋さんの仕事は天候しだいの自然との闘いでもある。夏は、うだるような暑さのもと朝から晩までキャンパス内の草刈りだ。本学の附属図書館横の土手から急な坂を上った弓道場のあたりまで、連日汗びっしょりになるまで雑草とにらめっこする。冬には雪かきが待っている。いかついサングラスをかけて、ぴかぴかの赤い除雪機を操っている人を見かけたら、それは間違いなく中井さんだ。 なんでも直すし、なんでもやる。

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