FN76号
6/48

FIELD.NOTE6 いつ気づいたのかすっかり忘れてしまったけれど、民家の庭の端にある古びたその社は何なのだろうと思っていた。石でできた台座の上に赤い社。屋根と台座を除いた部分は木でできていて、のぞきこんでみると二匹の白い狐が扉の両脇に静かにたたずんでいる。まるで何かを守っているかのようだ。扉のなかには何があるのだろう。いや、何もないのだろうか。神様がいると考えれば簡単に扉のなかを知ってはいけない気もする。のちに私はその社がお稲荷さんであると知った。 民家の向かいにある建設会社の事務所を訪ねると、活力のあるおばちゃんといった印象の太田さんがお稲荷さんについてお話をしてくださった。お稲荷さんは、本家に当たる家が先祖代々祀っているもので、家を建てないとつくれないものだそうだ。社の扉のなかには、「おたま石」が入っているという。おたま石は魂を表すものだそうで、その家で守り受け継いできた大切なものであることがうかがえる。扉の外にたたずむ二匹の狐はそのおたま石を守っているのだ。太田さんの家では、それまで神棚で祀っていたおたま石を40年前に外に出したという。 うちよりも大きなお稲荷さんを祀っている家があるから、と太田さんに紹介していただき、堀ほりうちはなよ内花代さん(66)にもお話をうかがうことができた。堀内さんは国道139号線沿いにある堀建トーヨー住器(堀内建材店)を営んでいらっしゃるかたで、会社の敷地内には立派なお稲荷さんを祀っている。じつは以前から、なぜこんなところに立派な鳥居が、と思っていた。まさかお稲荷さんだったとは。私の抱いていた「なんだろう」がこのようなかたち堀内さん家のお稲荷さん。お線香をあげさせてもらった。お酒がお供えされている太田さん家のお稲荷さん。真っ赤な社と両脇のきつねが印象的お稲荷さん文大通りに沿うようなかたちで細い道がある。周辺はアパートが密集しており、学生がよく歩いている道だ。水道橋(通称、ピーヤ)へと入る脇道を通り過ぎてさらに元坂を行くと、道に面した民家の庭に小さな社があった。社を祀る人、そして偶然知った社をつくる人にお話を聞いて、私なりに「継ぐ」ことについて想いをめぐらせてみる。お稲荷さんを祀まつる人社をつくる人藤森美紀(社会学科4年)=文・写真FIELD.NOTE

元のページ  ../index.html#6

このブックを見る