FN77号
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15地図都留の民話にまつわる場所を見に行きたい。本誌で民話が取り上げられている記事をたびたび目にし、そう思ってはいたものの、都留の地理を把握しきれていない私は、行動に移すことをためらっていた。だが、地図を頼りに出掛けてみたらどうだろう。そうすれば、早乙女塚があるところまで私ひとりでも辿り着けるかもしれない。 4月16日の昼過ぎ、自転車に乗って大学を出発した。国道139号線を十日市場方面に進み、幅1mちょっとの、狭い道から住宅街に入っていく。中央自動車道の下を通り抜けると、家はなくなり景色が開けた。一面田畑だ。山がぐっと近くに迫る。自転車をとめて、地図で場所を確認する。道なりに進めば長慶寺があるので、寄っていくことにする。 長慶寺には10分もかからず到着した。広々とした境内の左手には竹林があり、たけのこも顔を出している。奥には水の流れがある。境内を出て地図を広げる。このまま夏狩地区をさらに進んで、塚を探そう。 長慶寺を離れようとしたとき、水飲み場があることに気づいた。看板には霊命水とある。せっかくだから飲んでいこうと思う。先に写真を撮っていると、大学生かと後ろから声を掛けられた。若い女性だ。女性はプラスチックのコップに水を汲んで飲んだ。 飲み終わるのを待って「ここらへんに早乙女塚っていう塚はありませんか」と訊いてみる。「えっ、さおとめづか? 知らないなあ。ここに来て日が浅いから」。「そうなんですか」。「あっ、水飲む? いっつもその祠の横にこのコップが置いてあるんだよね。飲んだらそこに戻せばいいよ」。コップを受け取り、水をいただく。冷たすぎず飲みやすい。霊命水って、寿命が延びるのだろうか、などと思いつつ、コップを洗って祠の脇に戻した。手がかりはどこに 少し行くと、畑仕事中のおじいさんの姿。かなりのお歳のようだ。近づいていって「すみません」とできるだけ大きな声で話し掛ける。「んん?」「お尋ねしたいんですが、早乙女塚ってご存知ですか」。「あ? なんだって?」「早乙女塚ってありませんか」。「さおとめづか……聞いたことねえなあ。ここんとこずーっと上ってくと、まだ(夏狩が)続いてっから、ほかんひとに聞いてみろし」。手がかりが掴めないまま、十二天神社を通り過ぎ、緩やかな坂道を上っていく。人影があれば自転車を止め、声を掛けに行くものの、早乙女塚を知るひとはいない。 誰かいないかときょろきょろしていると、車から荷物を降ろしているおじさんを発見。すみません、と声を掛け、早乙女塚を知らないかと尋ねる。「いやあ〜、聞いたことないなあ」と困り顔だ。だがそのあと、わざわざ向かいのお宅のかたにも相談しに行って「あそこのひとなら何か知ってるかもしれんね」と、あるお宅を教えてくれた。立ち寄った長慶寺。水飲み場は、境内を出て道を挟んだところにある

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