FN77号
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no. 77 Jun. 201324春のフィールドで太陽の日差しがあたたかい。時間のながれもおだやかに感じる。まさに春の陽気だ。冬の間はさびしかった地面にもすっかり緑が戻り、おなじみの草花たちが顔をそろえている4月上旬の野原。 空中を縫ぬうように、ハチが忙しそうに飛びまわっている。そのいっぽうで、少し変わった飛びかたをしている虫がいた。糸で吊り下げられているかのように、ほとんど同じ高さを保ったまま少しずつ移動していく。体中にはふわふわの毛が生えていて、日が当たると艶があるようにも見える。毛の質感は、まるでビロードのようだ。これはビロードツリアブに違いないだろう。思わず笑ってしまうほど、名前の通りの姿をしている。毛が生えていてふわふわ。それに加えて、後ろ脚をピーンと伸ばして飛ぶ姿がなんとも可愛らしい。ひだまりの似合う虫 今まで知らなかったことが不思議なくらい、平地の野原や山道など、至るところで見かけるようになった。お昼にかけて気温が上がるころ、どこからか飛んできて花の蜜を吸う。そして日が低くなり、気温が下がってくるころにはすっかり姿が見られなくなる。午前中は日陰になる場所に生えているムスカリの花にも、午後になると3匹ほどのビロードツリアブが集まってきていた。どうやら、あたたかくて日の当たる場所が活動には適しているみたいだ。ひだまりのなかを花から花へと飛びまわる姿は微笑ましく、春の景色がいっそう楽しく感じられる。静と動 できるだけ近くで観察しようと、オオイヌノフグリの花の近くにしゃがんで待つ。すると、私のすぐ横の花にやってきた。脚は花につかまっているようだが、翅はねの動きは止まっていない。近くで見ると翅が細かくブルブル震えているのが分かるし、プーンという翅の音も聞こえてくる。こんなふうに飛びながら静止することを「ホバリング」という。止まったほうがエネルギーを消費しなくてすむ気もするけれど、このほうが花から花への移動が滑らかで効率がいいのだろうか。花に抜き差ししている口こうふん吻は、体長の半春を告げるビロードツリアブビロードとは布の片面に毛を立てた、柔らかくてなめらかな織物のこと。だから、毛の生えた生きものの名前には「ビロード」がつくことがある。ビロードツリアブもその名の通り毛が生えていて、春だけに発生するアブとして知られている。写真で見たぬいぐるみのような姿に惹かれた私は、さっそく春のフィールドに出かけてみた。鈴木陽花(初等教育学科4年)=文・写真・イラストイチゴの花の蜜を吸うビロードツリアブはるちゃんの都留生きもの図鑑第4弾

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