FN77号
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25分ほどはあるだろう。この長い口吻をストローのように使い、花の奥にある蜜を吸っているようだ。じっと見ていると、口吻の先が二股に分かれるのが見えた。このほうが蜜を吸いやすいし、先だけ分かれていることで邪魔になりにくいのかもしれない。 ずっと目で追いかけていると、石の上に止まった。そっと近づいて、上から観察する。本当に止まっているときは、翅が下を向いてぴたりと動かない。しばらく見ていると、よくハエがするように前脚や後ろ脚をこすり合わせていた。こうして再びほかの花へと飛んでいく。気まぐれに行動しているように見えても、その中心は蜜を吸うことにあるのだと思えてくる。    *    *    * 季節の移り変わりは、命の移り変わりでもある。健気に飛びまわっていたビロードツリアブたちも、5月中旬には見られなくなった。それでもその姿は、春の新しい風景の一片として私のなかに刻み込まれている。目立つこともない小さな命に目を向けることの楽しみを、春の天使たちが教えてくれた。今までに登場した生きものたちカジカガエルアカネズミテントウムシムスカリオオイヌノフグリとヒメオドリコソウ開きかけのリンドウの花にもぐり込んで蜜を吸うこともある花から花へ─ビロードツリアブがやってきた花─蜜を吸うときなどに口吻の先が二股に分かれているのが確認できる翅の上の部分は黒く、下の透明な部分との境界が波打っているオスメスオスとメスで眼の位置・形が異なるビロードツリアブってこんな虫短い春のあいだに出会った雌雄は、命をつないで一生を終える。土に産みつけられた卵からかえった幼虫は、土中に巣を作るヒメハナバチ類の幼虫やさなぎに寄生し、次の春を待つと言われている。

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