FN77号
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no. 77 Jun. 201328第20回   カヤネズミの      楽園をつくるススキなどイネ科植物の葉を細かく裂いて球状の巣をつくるカヤネズミ。身近にいるにもかかわらずその生態はほとんどわかっていません。暮らしの謎をこの目で解き明かしてみたい。そのような想いから中屋敷フィールドの草原でカヤネズミの楽園づくりを始めました。カヤネズミの楽園は、納屋を改築して造った観察小屋の目の前にある 大学から北西の方角に歩いて20分ほどの距離に中屋敷フィールドはあります。南向きの緩やかな斜面の縁を柄杓流川が流れ、対岸は溶岩流による急峻な崖となっています。 このフィールドの入り口にある清しみずていいち水貞一さんの水田では、5月19日に田植えをしました。今年90歳になる清水さんは、手で植えると一本一本が自分の子どものように愛おしいと、今年も一人で手植えによる田植えをしました。清水さんの水田を通り過ぎ急な坂道を下っていくと斜面にマタタビの白い葉が見えてきます。毎年、この白い葉を見て私は梅雨が近いことを知ります。 私がこのフィールドに通い始めたのは、2000年の秋。休耕田にススキの群落があり、秋風に揺れる穂を見て、一目でここが気に入りました。ここが気に入った理由はほかにもあります。カヤネズミの存在です。 カヤネズミという名前を初めて私が知ったのは、小学生のころのこと。父と川辺を歩きながら、ススキのなかにソフトボールほどの大きさの巣を見つけました。その巣はススキの葉を細かく裂いて編み込むようにつくられていたのですが、その時、これは鳥の巣だと思っていました。しかし父は、これがカヤネズミの巣だと教えてくれたのです。どのようにしてボールのような美しい形の巣を空中につくるのだろう。ハンモックのように風に揺れる巣を見ながら、いつかカヤネズミに出会いたいと思うようになったのです。世界一小さなネズミ カヤネズミは体長6㎝ほど。世界でもっとも小さなネズミの仲間といえるでしょう。重さは10gくらいです。尾は体長と同じほどあり、葉などに巻き付けて体のバランスをとりながら移動できます。ふつう、低地の草地や水田、畑、休耕地などのイネ科植物、とくにススキやオギ、チガヤなどが密生し水気のある場所を好むようです。私たちの身近に暮らしている哺乳類の一つといっていいかもしれません。しかし、野外で何を食べているのかさえ未だにわかっていません。 もともと一面に水田が広がっていた中屋敷フィールドも、いつしか休耕田が増え、今ではここを耕す人はいなくなりました。ススキの群落は、草刈りなどの手入れをしないで放っておくとやがて藪になるといいます。確かに中屋敷フィールドでもササやクルミの木が目立つようになり、ススキの草原の面積も減りつつあります。子どものころから憧れていた動物です。どうにかカヤネズミが暮らせる環境を少しでも残せないものでしょうか。 さっそく、草原の地主である渡わたなべ邊宗むねお男さんに、草刈りすることを条件に土地をお借りし、カヤネズミの楽園をつくることにしました。楽園といっても、あまりに広い面積だと手

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