FN77号
6/48

no. 77 Jun. 20136"見る"ことから  "作る"ことへ地図は一般的には見るものです。目的の場所に行くための経路を調べたり、世界地図を広げてアラスカとかサハリンがどこにあるのかを確認したりします。いっぽう、市内の巨木マップとか、ツバメの巣マップなどは自分で作ることのできる地図です。このような生きものの情報を地図上に示したものを「生きもの地図」といいます。 例を挙げましょう。大学の周辺を歩きながらセイヨウタンポポが咲いている場所を調べるとします。何回か調査をすると、セイヨウタンポポの生えている場所がわかってきます。この結果を地図上にまとめると、セイヨウタンポポの地図の完成です。 ほかには、キセキレイは谷や沢、川の近くでしか目にしないとか、西日本にはオナガがいないとか、本州だとシラカバやミズナラは標高1000m以上の場所から多くなるなど、経験的に知っていることもあるでしょう。こうしたことも、生きもの地図としてあらわせます。 ここでは、わたくしが約10年間に都留市内で観察した生きものを紹介します。多くの場所で観察されるヒヨドリなどではなく、そこにしかいない、あるいは、ある特定の場所に多い生きものを対象としました。 まずはヒバリ。30年くらい前には市内に多数生息していたようですが、現在は数箇所でしか見られません。なぜなのでしょうか。小おがたやま形山の農耕地では、春から夏にかけてまだヒバリのさえずりが聞かれます。 十日市場を流れる桂川の右岸には、地元のかたが「すりばち池」と呼ぶ場所があり、毎年4月上旬に多くのアズマヒキガエルが産卵に来ます。すりばち池のすぐ近くを桂川が流れているので、左岸からは産卵に来られないでしょう。左岸側に住んでいるアズマヒキガエルの産卵場所もどこかにあるはずですが、すりばち池のような場所は見つかっていません。 それから、市内で10種類以上の水鳥が観察できるのは川かわも茂だけです。川茂には発電所に桂川の水を取り込むためのダムがあり、部分的に川の流れが緩やかになっています。そのため、カモ類やサギ類などの水鳥が見られます。 市内をいろいろと見てまわると、あそこに行けばこんな生きものがいる、あの生きものを見るにはここに行けばいい、ということがわかってきます。アオサギのように、数年前に鹿ししどめ留川の近くの集団繁殖地が消滅してしまったものもいますし、市内でガビチョウが観察されるようになったのはおよそ20年前からとのことです。 見ることから、作ることへ。生きものの地図を作ることは、地域に親しむひとつの方法です。ヒバリが少なくなった原因を探るには、ヒバリの調査以外に地域のかたへの聞き取りが欠かせません。 体験を通して物事を理解することは大切です。なぜなら、世界を知っていくためには、自分のなかに地図を持つ必要があるからです。生きものの地図から地域を知る。この地図は、新しい出来事があるたびに更新され、その人の価値観や物差しとも呼べるでしょう。西教生(本学非常勤講師)=文・写真

元のページ  ../index.html#6

このブックを見る