FN78号
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15三角形の座布団にも似た布飾り、ヒイチ。都留市十日市場では多くの家の玄関に飾られている。はじめて見たときは、それが何なのか見当もつかなかった。そばを通りかかった地元のかたに「これは何ですか」と尋ね、魔除けや縁起ものとして玄関に吊り下げていることを教えていただいた。 ヒイチのことが気になった私は、ヒイチについて詳しいかたを探してみることにした。何人かの地元のかたからお話を聞いてわかったのは、ヒイチが道祖神祭りのご神木である梵ぼんてんざお天棹に取り付けられる飾りだということ。この祭りは毎年旧暦の正月におこなわれるそうだ。ヒイチは祭りが終わると、欲しいというお宅に配られる。 以前は道祖神祭りをおこなっていた地域はほかにもあったが、最近ではかなり減ってしまったらしい。なぜ十日市場には、今でもこの風習が残っているのだろう。そんな疑問が私のなかに生まれた。答えを知りたかったけれど、それ以上詳しい話を知っているというかたはなかなか見つからない。その後も何度か十日市場を訪れ、そこで知り合ったかたに「お年寄りもたくさん来るから、何か話が聞けるかもしれないよ」と自治会の集まりに誘っていただいた。 6月25日の集まりで、私はあるおばあさんに出会った。そのかたはヒイチについて調べたことがあるそうで、こんなお話を聞かせていただい十日市場の梵天棹。写真は十日市場在住の斎藤さんからいただいたた。その昔、十日市場では疫病が流行っていた。詳しい人数はわからないが、多くの人がその疫病で命を落としたらしい。そこで地域を守るため、魔除けのヒイチが付いたご神木を立てた。それが十日市場の道祖神祭りの始まりだったそうだ。 しかし、道祖神祭りやヒイチを飾る風習が始まったのは、もうずいぶん昔のことだ。なぜ道祖神祭りをおこなうのか、どうしてヒイチを飾っているのかを知っている人は、今ではとても少なくなった。「それでもこの風習はなくならないんですね」。私がそう言うと「魔除けとか、そういうものはなくならないのよね。もし止めてしまって、何か災いが起きたりしたらやっぱり嫌だから」。そんな言葉が返ってきた。人々が平穏を願う気持ちは、昔も今も変わらない。十日市場で暮らす人々を見えない災いから守り続けている、そんなヒイチの物語が私には見えたのだ。舟田早帆(社会学科1年)=文地域を守るヒイチ

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