FN78号
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17都留にはどんな絵を描く人がいるのだろう。そんな疑問をもった私は、上谷にある喫茶店、ギャラリー喫茶英はなぶさを訪れた。そこで紹介していただいたのが藤ふじえけいいち江啓一さん(65)。東桂のご自宅をアトリエとし、趣味でアクリル画を描いているかただ。 どんな絵が見られるのだろうとわくわくする気持ちのなか、私が見せてもらったものは一枚の雪景色の絵だった。その絵は、じっさいに東桂に存在する山のなからしい。幻想的な雰囲気があり、絵に引き込まれるようだ。私はアクリル画と聞いて、薄い色が重なった淡い色合いの、水彩画のようなものを想像していた。しかし、藤江さんが描くアクリル画は水彩画のような繊細さを持ちながらも、油絵のような力強さがあった。細部の色は線一本一本が鮮明でそれが全体を引き締め、絵の木々をいきいきとさせているように見える。 藤江さんの絵を見せていただいたたとき、自然と出た言葉が「きれい」だった。絵の筆使いや色合いなどといった絵画としての美しさはもちろんだが、描かれている景色そのものにも美しさを感じた。このような景色は、描きたいものをあらかじめ決め、意識的に探さなければ出会えないものだろうと思っていた。けれども、藤江さんは絵のきっかけとなる景色は偶然見つけたとおっしゃった。なぜこんな景色が、偶然に見つけられるのか。そんな疑問をもったとき、絵のこだわりをうかがったところ 「美しさ」という答えが返って来た。さらに、「瞬間瞬間にいっぱいあるよね」とおっしゃった。この言葉が私の心を動かす。私はこんな景色は藤江さんの前にだけ現れており、藤江さんはそういうものと出会う機会にめぐまれている人なのだと思っていた。しかしそれは違う。藤江さんは日常にあふれるものに目を向けており、藤江さんも私もきれいなものを見る機会は同じくらいあったのだ。 私はありがちな美しいものにばかり「きれい」を感じていたが、少し見かたを変えるだけで「きれい」は日常の一瞬にも見つけられることを知った。これは日常の一瞬を見逃さない藤江さんだからこそ見つけられた景色なのだ。私にとってこの絵は、なんでもない日常の見方を変える、そんなきっかけとなる一枚だった。伊藤瑠依(社会学科1年)=文瞬間を見逃さない『雪やんで』 2010年 アクリル 160×120cm(藤江啓一氏=写真提供)

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