FN79号
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13ノウサギの足跡西教生(本学非常勤講師)=文・写真 スズメやカラス類が集団でねぐらをとるようになると秋の始まりです。木の葉の色づく季節はすぐそこまで来ています。こんな時期に、ヤクシソウをはじめとしたキク科の植物やリンドウは花を咲かせます。本学の自然科学棟にナミテントウが集まり、越冬に入ります。落ち葉を踏んで歩く道、スイカズラやサルトリイバラ、イボタノキなどの実を目で追いながら、アオジやツグミなどの冬鳥を探すのもいいでしょう。 雪が降ると、大学の裏山の遊歩道にはノウサギやテンなどの足跡が残されています。いつもは目にすることのない哺乳類の存在を強く意識するのは、冬ならではの出来事です。ウソがソメイヨシノの芽を食べているところを観察できるかもしれません。オオイヌノフグリやホトケノザ、ウメの花が咲き、季節は春へと移り変わっていきます。 私がこれまで紹介してきたことの多くは、大学から半径500mの範囲内で見られるものです。しかも、特殊な道具を使わなくても観察することができます。遠くに出掛けなくても、同じ場所を繰り返し歩き、観察を重ねる。用意された出会いに甘んじることなく、まずは1年間、これを続けてみてください。いろんな季節のいろんな時間帯に、雨の日にも出掛けることをお勧めします。生きものへの関心の度合いは、その時々によって違っていることでしょう。生きものとの出会いを楽しむには、彼らがそこにいることに気づかないといけません。 それぞれの生きものには固有の時間が流れていて、生活史があります。彼らの暮らしを垣間見たとき、さらに深くその営みに触れたくなります。オトシブミ類は毎年決まった時期に揺籃を作り、ツバメやホトトギスはそれぞれだいたい同じころ日本にやって来ます。身の周りの生きものに関心を持つこと。それはやがて、さまざまな生きものに出会い、親しむことに繋がっていきます。また、身近なサルトリイバラの実ウソ生きものに親しむとは、生きもの同士の繋がりを見ることでもあります。たとえば、ウソはソメイヨシノの芽を食べますが、少なくとも大学の周辺ではソメイヨシノの花が咲かない年はありません。 生きものに目を向けると、季節の移ろいを察知できます。日々の暮らしのなかに、ぜひ、そんな楽しみを取り入れてみてください。

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