FN79号
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15(北垣憲仁)日本の霊長類学の扉を開いた名著とされる本です。自らの目と野帳と鉛筆だけを頼りにニホンザルの生態の謎を追い続けたこの記録からは、フィールドワークの基本や考えかたが読み取れます。著者は、調査地に入るとまず、フィールド全体を把握することに力を注ぎ、ひたすら山と森を歩き地形の全容を理解しようとします。そして地域の人からニホンザルの生態について聞き取りを重ねながら対象の動物の生態に迫ります。 高度な機械を用いて生きものの謎を解くことも大切ですが、「人間が生まれながらにもっている優れた感覚や、野外観察者の全体を把握しようとする努力」こそが重要という姿勢は、生きものの世界に近づくさいの私の大切な支えになっています。私も未だに自分の体と野帳と鉛筆という原始的な手法でフィールドを駆け回っています。『高崎山のサル』伊谷純一郎著 講談社 2010年千葉県にある山階鳥類研究所の所長をされた山岸さんの著書。これまでに新聞や機関誌などに書かれた文章が、「よみがえれ野生のいのち」「したたかな野生のいのち」「野生のいのちいつまでも」という3つのテーマにまとめられています。 山岸さんは著名な鳥類学者ですので、鳥類に関する内容がほとんどです。興味深い生態や行動、保全の考えかたなどがわかりやすい言葉で紹介されており、生きものを調査するときの姿勢や、教育に対する氏の持論も展開されています。112ページにある、「若い研究者が安易な適応論法による論文の量産に追われ、それこそ余裕を失い、研究の中でのよい意味での遊びの効用を忘れかけているような気がしてならないのだが。」という一文が心に残りました。(西教生)『Birds Note 野生の不思議を追いかけて』山岸哲著 信濃毎日新聞社 2012年(前澤志依)頭骨から動物の暮らしを探っていく一冊です。殺さない、壊さない、荒らさないをモットーに動物の骨を収集している福田さん。なかでもこの本では頭骨を中心に、動物の生態を読み解 いています。野菜についた歯型から下かがくこつ顎骨の歯並びを見て、それがどの動物の歯型なのかを判断したり、ドブネズミ(都会のネズミ)とハタネズミ(田舎のネズミ)の頭骨の違いを比較したりした話などが収録されています。 頭骨をじっくりと観察することで種族による生活環境の違いがわかることに驚きました。死んでしまってもなお、動物たちは私たちに暮らしぶりを教えてくれます。この本はなかなか本物の頭骨を見ることがなかった私にとって、動物の生態について考えるよい機会にもなりました。『頭骨コレクション 骨が語る動物の暮らし』福田史夫著 築地書館 2010年

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