FN79号
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25約束されていない出逢い 次にネズミ小屋に向かう。コンクリートブロックの土台に木の板とガラス戸でできた小屋だ。室内の両端には外へ通じる水槽のえさ場がある。ヒマワリの種やクルミを置き、野ネズミを誘って観察する仕組だ。クルミがなくなっているから、えさ場には来ているようだ。私のなかに、ここに野ネズミが来ているんだという確かな実感がわいた。 野生のネズミを観たことのなかった私は野ネズミの登場を心待ちにしていた。小屋のなかで気づかれないよう、同じ体勢のまま無言で来るのを待った。足がしびれてきても気合いで堪え忍んだ。しかし、15分ほど待ってもちっとも現れる気配はない。結局2日間とも野ネズミには逢えなかった。闇のなかの発見 その後、さらに山を登る。少し開けた場所で止まり、間隔をあけながら一列に並ぶ。「3分間。全てのライトを消して、静かに森のようすを感じてみましょう」とスタッフが呼びかけた。準備ができたところで一斉にライトを消す。真っ暗な世界が私の周りに広がり、前の人も後ろの人も見えない。近くに何があるかさえ分からない暗闇はまるで別世界だ。ふと上を見ると、淡い青色の空が真っ黒な木々のシルエットの間に広がっていた。 じっと、耳をすます。ムササビの声が向こうから聞こえてきた。虫の声、木々が揺れる音。姿は見えないけど、音でそこに自分たち以外の生きものが存在していることが分かる。その感覚は森に身をゆだねるようで心地いい。 山を下る途中、ホタルに出逢った。本当に光っているのかと思ってしまうほど弱い黄緑色の光が茂みのなかでふわっと柔らかく光ったり消えたりしている。夏だけしかいないと思っていたが、後で調べたら秋にもホタルはいるそうだ。寒い夜の森に見る優しい光は心穏やかな気分にさせてくれた。出逢うときを信じて 簡単だと思っていた生きものとの出逢いは思っていたよりずっと難しいものだった。じっさい、今回のナイトハイクで野ネズミを観ることはできなかった。残念だけど、たった2日の短い期間で生きものに出逢える保証はどこにもない。私が行けば逢えると思い込んでいただけだったのだ。 でも逢うことができなかったからこそ、自分の目で本物を確かめたいという興味は前より強くなった。初めて私がムササビの滑空を観たときのことは今でも心に焼きついている。自分の体の半分ほどもあるネズミが上空を飛んでいく。あまりにも衝撃的だった。そんな想像もできないことが目の前で起る。 だから生きものに出逢ったとき、すぐには起こったことが信じられない。けれど、後からじわじわと喜びがわき上がってくる。その出逢いの瞬間が楽しみだから私は生きものに逢いたいと思う。そしてその気持ちが積もるほど、私は生きものを好きになっていくのだ。(上)ネズミのえさ場はガラス製のため、やってきた野ネズミのようすが観やすくなっている(下)ネズミ小屋のなかにはストーブが置いてあるので冬でも観察ができる。小屋周辺にはえさ場もある
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