FN79号
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no. 79 Dec. 201338「いちごいちえ」というところ 「いちごいちえ」は公人さんをはじめ6名のスタッフと、34名のさまざまな障がいをもつかたが登録、在籍なさっている。障がい者のかたがたは就労へ向けた知識の習得や、実践的な学習に取り組んでいる。その8割は精神障がいのかただそうだ。 「いちごいちえ」ではさまざまな商品を作り販売している。私が食べたあのお豆腐は、市の工房を借り、週に一回25丁が作られている。事前に予約注文をしていくお客さんが多く、ほとんどがそれで売り切れてしまうとのこと。また、最初に見た刺繍のふきんやビーズのストラップのほかにも、手作りのお菓子などの販売もしている。 このようにたくさんの商品を展開しているのは、いろいろな作業のなかで個人の性格にあった仕事を見つけるためだそうだ。私はそこに、公人さんたちが一人ひとりの性格や力をしっかりと見つめ、引き出そうとする思いを感じた。受け止められる場所になる 「いちごいちえは、精神障がいのかたの就労と生活を支援する事業所ということでスタートしたんです」。「いちごいちえ」を立ち上げた理由をうかがうと、公人さんは感慨深げにお話しをしてくださった。 公人さんは大学生のころ、京都でさまざまな障がいをもつ学生の在宅支援をしてきていた。大学を卒業後、精神科の病院でソーシャルワーカー(※)をしているとき、精神障がいのかたの支援をはじめ、障がいをもつかたがたとの関わりを深めていったそうだ。「精神障がいのかたってね。現在でもそうなんですけども、なかなかこう、理解をえにくいと。一見すると、ぜんぜん健常者の人と(見た目は)かわらないじゃないか、という理解(認識)のされかたをするもんですから」ある日、母が買ってきてくれたお豆腐は、いつもスーパーで買うものと違っていた。すこし歪な形で、箸で持ち上げてもあまり崩れない。そして、口に広がる大豆の甘み。このお豆腐は地域イベントに出店していた「いちごいちえ」で買ったものらしい。くわしく聞くと、その施設は私が気にしていたあの建物のなかにあった。 私は「いちごいちえ」がどんなところか興味がわき、10月18日にそこを訪ねてみた。 扉を開けると、20名ほどの人たちがいくつかのグループに分かれて大きなテーブルを囲み、ふきんに刺ししゅう繍をしたりビーズでストラップを作ったりしているのが目に入った。談笑する声も楽しげだ。 なかに進むと、奥から「いちごいちえ」の施設長をされている山やまぎしきみひと岸公人さん(56)と奥さんのゆかりさん(43)が笑顔で出迎えてくださる。挨拶をかわしてすぐ「緊張するなあ」と照れ笑いを浮かべた公人さんにつられ、私も笑ってしまった。お二人は事業所についての資料を事前に用意してくださっていた。「お喋りが上手じゃないので」と公人さん。資料を見つつお話をしてくださった。豆腐作りのようす。10以上ある工程を順序よくてきぱきとこなされていた

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