80(単ぺージ）

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　ゆっくりと開けたドアのむこうは、外から見るよりも天井が高く広々としている。木製の壁のあたたかみがなんとも心地よい。店内は薄手のコートを着て丁度いいぐらいの温度で春先のようだ。思わずわくわくするような、そんな出会いの季節を思わせてくれる。雰囲気がいいなと思いつつ、向かって左手にあるショーケースに目をやる。そこは私の今まで入ったことのあるケーキ屋さんとは一味違っていた。　というのも、どのケーキも種類ごとに一個か二個しか置いていない。どうしてなんだろう。すごく人気でほとんど売れてしまったのかな、と考えているとショーケースの横の扉から、鮮やかな青色のバンダナを巻いた少し小柄な女性が出てきた。ニコリと微笑み、「いらっしゃいませ」ときちんと目を合わせて声をかけてくださる。　私はケーキ屋さんというと気難しそうなパティシエがいるイメージを抱いていたから、お店に入るときはいつも少し緊張する。でもその女性は気取ったとっつきにくさはなく、気さくに接してくださった。優しそうなかたでよかった、と安心してもう一度ショーケースに目を向ける。一番に目を引いたのは、つややかな丸い白地にサクラ色のソースとブルーベリーが一粒上品にのった「レーヌ」というケーキ。宝石みたいにきれいで見とれてしまった。その日は持ち合わせの都合でシュークリームを買って帰ったけれど、また来たいなと思った。　店内もお店のかたもいい雰囲気。そういうお店からの帰り道はとても心が満ち足りた気分になって、足取りが軽くなる。ショーケースに並んでいたきれいなケーキたち。「ジョージワシントン」とはどんなお店なんだろうと知りたくなり、後日お話を聞きに訪れた。こだわったからこその選択　　私がお話をうかがったのはオーナーの中なかむら村昭博さん（63）。妻の喜きみえ美江さん（58）と息子の宗むねひろ博さん（34）の3人でお店を切り盛りしている。　　夕暮れどき、店内の窓側に置かれているテーブルに向かい合うかたちでお話を聞く。　昭博さんは昔、東京でシェフとして働いていた。喜美江さんとの結婚を機に山梨に来たそうだ。都留にお店を構える前は忍野村でケーキの工場を営み、卸売りを専門にしてい①左から奥さんの喜美江さん、息子の宗博さん、オーナーの昭博さん。店内ショーケース横にて②ケーキは季節限定のものから定番のものまでさまざまだ③店内は隠れ家のようで居心地がいいとお客さんに評判④色とりどりのケーキの写真が大きく掲げられた外観が「ジョージワシントン」の目印②③no. 80 Mar. 201414④①