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たという。当時ケーキ作りは職人に任せていたが、納得のいくものを作りたいという思いから自身でケーキを作り始めた。そういう経緯を経て、現在の場所で「ジョージワシントン」を経営している。 一番気になっていた、ショーケースにケーキを一個か二個しか並べない理由をうかがった。昭博さんは顎に軽く手を添えながら、「やっぱり傷むんですよ。直射日光や湿度の関係とかもあるしね。やっぱりいい状態で食べてもらいたいってのもあるし」とショーケースに目をやりつつ、おっしゃった。長時間日光に当たっていない新鮮なものをお客さんに渡すために、そのつど新しいものを厨房の冷蔵庫から出している。お店に入ったときに感じたあの春先に似た低めの温度設定は、ケーキが傷まないための配慮のひとつだったのだ。またあなたと会いたい 初めてお店に来たときのことを振り返り、「喜美江さんの印象がすごくよかったです」とお話した。すると昭博さんはそんな大げさなと笑いながら「一流の店なんだぞって顔されたら嫌じゃん。ありがとうございましたって言って終わっちゃうのは嫌だから、ありがとうございますって。そういうことは話すね、よく家内と。やっぱりまた来てほしいから」と接客のこだわりについてお話してくださった。 私もアルバイト先で接客をしているが、語尾の違いなんて気にかけたことはほとんどなかった。けれど中村さんたちはたった一言にまでこだわり、またあなたと会いたいという思いをこめて「ありがとうございます」と言っている。そのちいさな語尾の違いは、お客さんとの繋がりを大切にする思いから生まれたものだと分かった。また来たいと思うのは お話のなかで昭博さんはケーキ屋なんだからケーキが美味しいのは当たり前、だから接客での一言や管理の方法にまで気を配っている、と自信をもった表情でおっしゃっていた。その思いの表れが手間をかけた管理や「ありがとうございます」の一言だ。根底には、自分の店を選んで来てくれるお客さんを大切にしたいという思いがある。 昭博さんは「人と人との繋がりって、できるって非常に良いよね」とおっしゃった。繋がりを大切にしたいという思いが「また来たい」と思うお店を創っていたのだ。        *  *   *  お話を聞いた後日、再びお店を訪れ、ケーキを食べた。ザッハトルテに無加糖クリームをのせてゆっくりと味わう。純粋に、本当にここのケーキは美味しいなあと思った。昭博さんの言葉を思い返しながら一口ひとくちを噛みしめるとさらに美味しい。作り手の思いを知った後に食べるケーキはいつもの何倍も美味しかった。 こだわりや思いを知ってから食べる「おやつの時間」は、いつもよりずっと幸せな気分になることができる。15ケーキのジョージワシントン工場・ショップ都留市上谷5‒6‒1TEL 0554‒45‒4260インターネットショップhttp://www.tanjoubi.jp定休日不定休都留時間

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