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no. 80 Mar. 201418H・D・ソローが『ウォールデン 森の生活』(今泉吉晴訳、小学館)で示唆した散歩のほんとうの意味とは何か。散歩をとおして見えてくるものとは。私たちは歩くことで、変貌する自然やまちの今を記録し、フィールド・ミュージアムのたのしみを報告していきます。第23回①最初に夜の森に動物観察に入ったときの不安な気持ちは今でもはっきり覚えています。大学に入学したばかりのころです。昼間は遠方まではっきり見えた森が、夜になるとまるで視界が閉ざされたかのような暗闇につつまれ、現実の世界から異界へと吸い込まれていくような不安な感覚になりました。 身近に暮らすムササビや野ネズミなど哺乳類のほとんどが夜行性ということもあり、相手の暮らしのリズムにあわせて観察しようとするとどうしても夜が中心となります。小型の哺乳類なら、水槽で飼育すれば観察も楽になるかもしれません。しかし閉ざされた狭い空間では、動物に相当なストレスを与えてしまい、行動そのものを変えてしまうことがよくあります。生きいきとした自然の状態をこの目で観察したい。それには動物が生活する時間と場所にあわせて会いに行く、というのが今も私の観察の基本となっています。 哺乳類の自然な姿を映像に記録しておこうと、昨年からビデオカメラを使った撮影を始めました。今年も2014年1月16日、快晴の夜、通い慣れた森に入りました。まず日没後、ほぼ定刻に出会えるムササビを撮影し、その後、場所を移して野ネズミを観察しようというのがこの日の予定でした。 大学から車で15分ほどの距離にある今宮神社に着いたのは、あたりが薄暗くなりはじめた17時でした。この神社は県道に接し、車の往来も激しい場所です。人の暮らしのすぐそばでこうして野生のムササビが生息しているというのも不思議です。17時20分、境内のケヤキの洞からムササビが顔を出しました。顔を出してもすぐには洞から出ようとはしません。顔を出してから5分ほど経って、まるで安全を確かめるかのようにあたりを十分に伺ってからより高い場所へと移動します。そして20mほど離れたスギの木に滑空しました。このときすでにあたりは夜の暗闇に包まれていました。私には懐中電灯で照らす範囲しかはっきりと見ることができませんが、ムササビは直径20㎝ほどのスギの木に確実に着木しました。 ムササビのつぎに、19時からアカネズミの観察と撮影に取りかかりました。今度はじっと地面を見つめます。あらかじめ倒木の下に開いた直径3㎝ほどの穴の前にヒマワリの種を10粒ほど置いておきました。ヒマワリの種夜の森が楽しいわけ北垣憲仁(本誌発行人)=文・写真

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