学報136号
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 ご卒業おめでとうございます。 いろいろな意味で、晴れてひとり立ちですね。すでに社員研修を経験し希望に胸膨らませている人、あるいは不安になっている人、まだ最終目標に到達できずにいる人、さまざまかもしれません。どんな言葉でみなさんを送ろうかと考えましたが、やはり、今、日本も含め世界中で大きなうねりとなっているセクハラ撲滅をめざす動きについて触れることにします。 アメリカハリウッドの女性俳優たちの“Time’s Up(もう、おしまい)”の合言葉、一般の職業でセクハラ被害に遭った女性や男性を支援する“Time’s Up”のセクハラ救済基金の発足(すでに莫大な基金が集まっています)、そしてツイッターでセクハラを告発する“Me Too”の運動。その輪は世界中に広がっています。2018年1月はじめのゴールデン・グローブ賞受賞式会場では、男性も含めて、出席者が黒の衣装でセクハラ反対の立場を鮮明にしました。ハリウッドで告発された大物プロデューサーや有名俳優、辞職に追い込まれた大物政治家(イギリス、アメリカ)、議員のセクハラ疑惑の調査を立ち上げた欧州議会・・・。日本でも演出家が謝罪しています。 これらは、みなさんが卒論執筆に本格的に取りかかろうとしていた2017年の秋から起こっています。この動きにみなさんは気づいていましたか。ある意味、みなさんはラッキーかもしれません。世界中がセクハラに対して「もう許さない」というメッセージを発している時期に社会人になるわけですから。朝日新聞デジタルのアンケート調査(2017年12月26日~2018年1月17日 計713人回答)によると、「#MeTooでセクハラなどの性被害について声を上げる動きをどう思いますか」という問いには、89%が共感する/どちらかというと共感する、「日本社会は、セクハラなどの性被害について声を上げやすい社会だと思いますか」の問いには、93%がそうは思わない/どちらかというとそうは思わないと回答しています。セクハラに対し「ノー」と言いづらい社会。どのような言動がセクハラにあたるのかをまずは確認しましょう。何かあれば“Time’s Up” の気持ちで。他のハラスメントについても深く理解することにつながります。 大学院修了生の皆さん、修了おめでとうございます。 皆さんはそれぞれ、学部で研究という世界の魅力を知り、卒業論文を完成させる過程で自身の関心を深め、さらに学術的に高いテーマを探究するという志を持って大学院に進んだわけですが、2年間、徹底的に自分の課題に取り組んだ感想はいかがでしょうか。修士論文を書き上げた際に、その学術的な水準を審査する指導教員に対して、また先人の研究の蓄積に対して、あるいは進学当初の自分の動機を省みて、いろいろ思うところがあったのではないでしょうか。 私自身が修了した時のことを思い返すと、率直に言ってまだまだ自分には分からないことが多く、力量も不十分なのだという印象が強く、自分の研究が胸を張って提出できるような有意義な結論に至っていないという失望を味わっていたような気がします。もしかしたら、学部の卒業論文の方がまだ純粋な達成感があったかもしれません。授業で接してきた院生の様子を見ても、皆さんも多かれ少なかれ私と似たような思いをお持ちではないかと思っています。 もちろん、皆さんの研究は複数の研究者の審査によってその価値を認められて修了されるわけですが、それ以上に、自己に対しても他者に対しても正当な評価の眼を持ちつつ、八方塞がりのように見える苦しい局面にあっても思考や議論を重ねていく粘り強さこそ、皆さんがこの2年間で身につけられた力ではないでしょうか。何かを知るほど自分の無知を知らされるというのは情けなくもありますが、楽しいことでもあります。教職に進まれる方、企業や公務員として勤める方、さらに進路を模索する方もいるでしょうが、今後も専門家としての自負と純粋な探究心を忘れずに活躍してほしいと願っています。しなやかに、心ゆたかに大学院修了生におくる言葉比較文化学科教授大辻千恵子大学院文学研究科国文学科准教授野口哲也10都留文科大学報 第136号

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