学報136号
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講演会だより 2017年12月13日(水)に、田中俊之さん(大正大学心理社会学部准教授)によるジェンダー研究プログラム講演会が行われました。 ジェンダー問題は「女性」や「LGBTQ」の視点から語られることが多いわけですが、男性の視点からジェンダーの問題、男性の「生きづらさ」について語られることは必ずしも多くはありません。こうした視点が関心を呼んだのか、田中さんのユーモラスで軽妙な語り口も相まって60名以上の参加者で活気の溢れる講演会となりました。 とりわけ、ご自身のパートナーとの会話や日頃目にする当たり前の風景を、男性学の視点で切り取って、日本社会のいびつさを提示したこの講演は大変興味深く、考えさせられました。講演では、男が男らしさを証明するためには誰かに勝たなければないという競争の論理が、男性自身を縛り、「弱音がはけない」「本当の自分が出せない」状況をつくりだし、人とかかわることを困難にさせていること。そして、「男らしさ」をめざせばめざすほど、生きにくくならざるをえなくなる社会のシステムを、具体的にわかりやすく説明してくれました。さらには、政府が盛んに強調する「女性活躍社会」も、現在の日本社会のなかでは、女性も「男性」化せざるを得なくなり、現在男性が抱えているのと同じような困難に直面することになるという指摘は、たいへん重要なものです。 こうなってしまう原因は何か、そしてこの状況を変えるには何をすべきなのかということにも田中さんは言及され次のように述べています。 「男らしさ」とは、決して歴史超越的で普遍的なものではなく、ある社会がその「必要」に応じてつくりだしたものであって、その根源には日本社会の男女間、職業間等の不平等性があること。 そしてこれを乗り越えるには、ある意味で社会を、自分とは異なる価値観を持つ個人や集団と出会った時の純粋な経緯や開放性が価値あることであるという(ダイバーシティを認め合う、積極的寛容を軸とした)社会へと変革することが必要であること。 ただし、そうした変革のためには、私たち一人ひとりが、社会的な役割から距離を置いた個人の領域の意義を認め、自分が安心できる場、聞いてくれる人がいる場をつくりだし、自らのワーク・ライフバランスを見直していく「勇気」を求められる。参加者は、熱心にこの講演を聞き、これらの提案をそれぞれが受け止めていました。(初等教育学科 教授 佐藤 隆)2017年度 都留文科大学 ジェンダー研究プログラム講演会『男がつらいよ——男性学の視点から見た日本』開 催:平成29年    12月13日(水)講演者:田中俊之 氏講師紹介田中俊之(たなか としゆき)1975年、東京都生まれ。大正大学心理社会学部准教授。男性学を主な研究分野とする。著書 『男性学の新展開』青弓社、『男がつらいよ―絶望の時代の希望の男性学』KADOKAWA、『〈40男〉はなぜ嫌われるか』イースト新書、『男が働かない、いいじゃないか!』講談社プラスα新書、小島慶子×田中俊之『不自由な男たち――その生きづらさは、どこから来るのか』「日本では“男”であることと“働く”ということとの結びつきがあまりにも強すぎる」と警鐘を鳴らしている。34都留文科大学報 第136号

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