学報139号
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 2018年7月11日に、小泉凡先生を招いて比較文化学会主催の講演会「小泉八雲(ラフカディオ・ハーン) ~オープン・マインドでみた日本~」を開催した。小泉八雲は日本の比較文学では最も研究されている作家のひとりであるが、彼が日本人だと信じ込んでいる学生も多い。ぜひ小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)について知ってもらいたいという想いから今回の講演会を企画した。 小泉凡先生の曽祖父にあたるラフカディオ・ハーンは、ギリシャ・レフカダに生まれたイギリス国籍のアイルランド人である。幼少時代をアイルランドとイギリスで過ごし、アメリカで新聞記者として活躍した後、マルティニックというカリブの島で旅行記を執筆した。日本に渡り、日本人女性、小泉セツと結婚し小泉八雲として執筆を続けたが、今日では珍しくもない国際結婚も、当時は「雑婚」と呼ばれ、妻のセツにとっては風当たりの強いものであった。 小泉先生は、ハーン作品の先見性と現在の社会とのつながりについて指摘された。例えば『知られざる日本の面影』(Glimpses of unfamiliar Japan)では、ハーンは将来日本に必要なのは自然との共生とシンプルライフであると説き、「自然は過ちを犯さない。生き残る最適者は自然と最高に共存できて、わずかなものに満足できるものである。宇宙の法則とはこのようなものである」と語った。東日本大震災後、人と自然との調和の大切さを再認識した我々にとって、ハーンの言葉は心に響くものがある。  さらに、ハーンの文学作品が地域の活性化に一助となる可能性を小泉先生は示唆された。例えば「勝五郎の話」は実在した人物を題材にした生まれ変わりの物語だが、登場人物の子孫が親交を続けて「生まれ変わり物語探求調査団」が組織されたという。さらに、ハーンの『怪談』をもとにNPO法人松江ツーリズム研究会が2008年からゴーストツアーを企画し、大成功を収めたことも紹介された。 豊富な写真とエピソードを交えながら、レフカダ、アメリカ、マルティニック、松江、熊本、神戸、東京と移動するハーンの「片道切符の旅」の展開に、学生たちはじっと聞き入っていた。小泉先生のお話を通じて、学生たちも文学作品が文化的な資源であり、それが人々を結びつけ、日常を見つめ直すきっかけになることを学んだはずである。(比較文化学科准教授 齊藤みどり)2018年度比較文化学会前期講演会小ラフカディオ・ハーン泉八雲 ~オープン・マインドでみた日本~講師紹介小泉 凡(こいずみ ぼん)小泉八雲記念館館長・焼津小泉八雲記念館名誉館長・島根県立大学短期大学部名誉教授。1961年東京生まれ。成城大学・同大学院文学研究科で民俗学を専攻後、1987年に松江へ赴任。妖怪、怪談を切り口に、文化資源を発掘し観光・文化創造に生かす実践研究や、小泉八雲の「オープン・マインド」を社会に活かすプロジェクトを世界のゆかりの地で展開する。2017年7月、日本・アイルランドの文化交流貢献で外務大臣表彰。主著に『民俗学者・小泉八雲』(恒文社、1995年)、『怪談四代記―八雲のいたずら』(講談社、2014年)ほか。小泉八雲曾孫。日本ペンクラブ会員。開 催:2018年7月11日(水)  講演者:小泉 凡氏講演会だより33都留文科大学報 第139号

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