学報139号
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おくることば 卒業されるみなさん、まずは卒業おめでとう。ただし、大学の卒業は何かの「終わり」ではなく、みなさんの人生の本格的な「始まり」です。それぞれの人生への旅立ちを見送る大学教員の一人として、みなさんに伝えたいことがあります。それは、ネットなどでよく見られる無責任で根拠の怪しい主張や中傷に、簡単に乗せられないでほしいということです。そうした言論世界では、教科書などに記載されている常識をひっくり返すことが正義で、そこに真実があるかのようなメッセージで溢れていますが、それをもう一度ひっくり返して、自分の頭で考えてみるという「知性」を、みなさんには発揮してほしいのです。 もちろん、教科書に載っていることがすべて真実だというのではありません。問題の根元は、単純でわかりやすい二者択一で物事を判断し、それを他者に押し付けようとするところにあります。不透明で不確実な時代であるほど、人は単純でわかりやすい主張に流されがちですが、それは「考える」ということを放棄して、他者の思惑に身を委ねてしまうことです。社会に起こるあらゆる問題は、二者択一で捉えられるほど単純ではありません。わかりにくく、理解に意識的な努力を伴う、面倒なものです。しかし、その「面倒さ」に付き合い切る「ちから」こそが本当の「知性」であり、それをみなさんは大学の4年間で身に付けたはずです。今後の健闘と発展を祈ります。 大学からは富士山は見えないけれども、大学の授業や大学の外の生活の中で、富士山を意識しなかった人はいないであろう。 大学では、国文学科の教員がリレー方式で富士山を多面的に講ずる教養科目「歴史と文化Ⅸ」の授業を受講して、富士山についての知見を深めた人も多かろう。私が担当した「古典文学テーマ研究Ⅲ」の授業で暗誦した日本最初の富士山の歌である山部赤人の「富士の山を望(み)る歌」の美しく清く神聖な文学世界は、今後の歩みの心の支えとなってくれるであろう。太宰治の「富嶽百景」を読んだ人の中には、天下茶屋からの富士山の眺めを追体験した人もいよう。 大学の外では、富士急の富士山駅や河口湖駅の周辺で、アルバイトをした人も多かろう。その行きと帰りの列車の窓から見た富士山に、心なぐさめられた人もいるであろう。 富士山が存在する生活は、人生の中でかけがえのないものであると言える。 昼間の光まばゆい雪の白富士。夕日に染まる紅富士。紅と白の富士山が皆さんの卒業を祝っている。 これからも、心の富士山は、やさしく語りかけてくれるであろう。励ましてくれるであろう。 世界文化遺産となり、外国の方も数多く訪れる富士山は、国際交流の象徴でもある。日本のみならず、世界でのご活躍を祈ります。       末尾に拙句を記して、贈る言葉といたします。  富士山を心に幸あれ卒業生おくることば富士山を心に幸あれ卒業生学校教育学科教授西本勝美国文学科教授鈴木武晴62019年3月8日(金)

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