都留文科大学学報(最終)【Web差し替え(R7
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これまでより、これからを地域社会学科准教授 冨永 貴公 「サヨナラ」だけが人生。そうであれば、春も人生もいらない。さよならだけど、さよならじゃない。先人は涙と勇気と諦めと苛立ちと酒を別れに添えて、さまざまな言葉を残してきました。みなさんと時間をともにしたこの大学は、先人が残してきた言葉と自分自身の感覚や経験を突き合わせ、ときにそれらに翻弄され、迷い、その本意をつかみ取り、見失い、御し、もがきながら、未だ誰も知らない、新しい言葉を生み出す場でありました。 さらに、名前のない何かに、そのように新しい言葉を付すなかで、隣の誰かと興奮と感動と悦楽とともにそれを分かちあう場でもありました。その分かちあいには制限がかけられ、今までとは違うかたちをとってきた大学生活であったことと思います。しかしながら、今までと違ったからこそ、わたしたちは、これまでの、まさに字義通りの有り難さとともに、先人の言葉と自分のそれとに向き合うことができました。 これまでの有り難さのなかから、これからを切り拓く言葉を持ってみなさんは、4月からの新しい生活を迎えます。その新しい生活のなかでは、これまでの有り難さがときに、重たく、余計で、邪魔なものにみえるときもあることと想像します。そのときにこそ、新しい言葉を生み出し、その言葉を力に変えた大学での生活を思い出していただき、これまでを踏まえながらも裏切り、これからを創り出していただきたいと思います。 おからだをくれぐれもお大事に、ご活躍くださいますように。これまでとこれからに大学院文学研究科社会学地域社会研究専攻 教授両角 政彦 研究をしているといろいろな悩みがでてきます。その一つが、「いつまでに、どこまで」進めるのかという計画と実行と実現にかかわる問題です。研究には基本的に際限がなく、突きつめていくとつぎからつぎへと課題がでてきます。日常生活ではほかにもやることがあり、そのたびに最適な判断をして、将来にもかかわるさまざまなリスクに対処し回避していくのは容易とはいえないようです。 リスク研究では、意思決定の際に、諸々の問題を整理し、最重要な点を見出して、そこに意識を集中していく必要性を説いています。リスクをめぐる事実の側面と価値の側面も考慮に入れながら計画的におこないます。 もっとも研究は計画どおりに進まないところに大きな意味があります。行き止まりになったりわき道にそれたり、勘違いしたり間違えたりしたことで新たな発見や発想が生まれてきます。何事も失敗から学ぶことが多いとされるところです。その可能性が事前にわからないため、先のみえない不安につながり、時間との闘いにもなっていきます。 リスク(risk)の語源をさかのぼると、「思い切ってやる」、「不確実性に直面しての行動」という意味があるそうです。やはりすべて事前に予測して常に最適な判断をして実行するのは難しいので、社会のなかで「いつでも、どこでも」を意識しながら知識と経験を積み重ねて、自身の価値観で自分を信じて意を決して進む、ということも時と場に応じて必要になるでしょうか。 ご卒業、ご修了おめでとうございます。心よりお祝いを申し上げます。皆様の今後のますますのご活躍を祈念いたします。おくることば15都留文科大学報 第151号
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