都留文科大学学報(第152号)
12/32
新任教員の小村宏史と申します。前年度までは、静岡県にある沼津工業高等専門学校に勤務しておりました。縁あって本年度より文学部国文学科に着任した次第です。 前任校ではよく見えた富士の姿が、文大からは近隣の山々のおかげで全然見えません。しかし、かつて文大生として本学に通った過去をもつ私にはこれも既知のことで、むしろ懐かしさと落ち着きなど覚えるところでもあります。 さて私の主要な研究対象は、わが国古代文学における神話的言説というものです。いかにも浮き世離れした虚学のようですが、ある共同体が危機や困難に臨むとき、そこに超越的存在に心の拠り所を求める言説(=神話的言説)が生成される現象は、現代でもまま見られます。新型コロナウィルス禍のなか、疫病を退散させるというふれこみで「アマビエ」なる妖怪図像が人気を集めたことはよい例といえるでしょう。また全国各地の「ご当地キャラ」は、地域の象徴要素を有するという点で、新たな土地神の創造行為ともいえそうです。 古典不要論なども耳にする昨今ですが、「古代を通して現代をみる」という視座のもと、本学での研究・教育活動を通し、学生諸君に、自らをとりまく文化事象について問題意識をもって見つめる姿勢を涵養していくつもりでおります。どうぞよろしくお願いいたします。 文学部英文学科に英語学担当教員として着任いたしました、堤博一と申します。専門は生成文法で、日英対照言語学的視点から、人間がどのように言語表現を生成し、理解するのかを研究しています。 昨今、ChatGPTのような大規模言語モデルが注目されています。これらは、膨大な量のテキストから自然言語のパターンを抽出して文章を生成することができ、機械翻訳、文章生成、質問応答などのタスクに使用されています。これに伴い、この分野から、人間の言語獲得における「刺激の貧困」の問題を解決するために、「普遍文法」という生得的機構を措定する生成文法理論への批判が散見されるようになりました。自然言語処理技術がますます発展する中で、この批判にどう応えるべきか、また生成文法を含む理論言語学が果たすべき役割について、考察を進めていくつもりです。 母語話者が当然のように使いこなす無意識的な言語知識を客観的に分析する言語学は、これまでに身につけ当然視してきた常識や規範意識、偏見を相対化し見つめ直すという大学での学びのあり方を如実にかたどっていると思います。学生の皆さんと共に、英語学や言語学についての知識を深めることを通じて、成長していくことを楽しみにしています。どうぞよろしくお願いいたします。着任によせて国文学科 准教授小村 宏史英文学科 講師堤 博一着任のご挨拶国宝・神魂神社本殿。出雲大社同様の大社造だが、現存最古なのはこちら。島根県のご当地キャラ「しまねっこ」はこの大社造の意匠を受け継ぐデザインとなっている。自然言語の文は階層的な木構造をしているとされる122023年7月3日(月)
元のページ
../index.html#12