都留文科大学学報(第152号)
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比較文化学科 教授 伊香 俊哉 2022年度後期、2度目の学外研究の機会をいただだくことができた。2019年秋に「戦時期日本の中国占領・支配の総合的研究」というテーマで科研に応募し、日中戦争開始以降の中国華北地域の状況について史料調査を中心に研究を進める計画であった。ところが2020年に科研採択の通知を受けた頃にはコロナウィルスの感染が拡大し、20年度と21年度は現地調査を実施できなかった。22年6月、受け入れ先の首都師範大学(北京)の先生から、学術交流のビザの申請が再開されるとの連絡を受け、ビザ申請に臨んだが、以前の平常時には認められていた6か月とか1年の継続滞在を認めるビザは発給されないとのことで、短期間のビザでの渡航となった。 航空チケット選びも難航したが、10月に中国にどうにか渡り、前回の学外研究からちょうど10年ぶりのそれなりの北京長期滞在が始まった。ゼロコロナの厳しい規制の中、飲食店もろくに開いておらず、貧しい自炊生活を続けながら、日々PCR検査を受けながら、档案館にできるだけ通い、ネットも最大限活用しての史料収集を続けた。滞在中ゼロコロナから100コロナへの大転換に直面し、帰国直前にコロナに感染して飛行機に乗れなくなったらどうしたものかといった恐怖に襲われながらも、どうにか無事に帰国することができた。 今回収集したのは1941年から1945年の治安強化運動と新国民運動に関する史料が中心となった。北京市档案館で閲覧できる資料は全てデジタル化されたもので、複写は量的制限が厳しいので、画面を見てのパソコン入力も必要だった。帰国後は収集した史料整理・分析に集中し、従来の研究では言及されていないそれらの運動の側面を新たに見出すことができ、3月末までにどうにか論文を1本書き上げることができた。ここ数年、論文らしい論文の執筆から遠ざかっていたので、自分は論文をまだ書けるのだろうかとの不安もあったのだが、まだなんとか論文を書くことができることが自己確認できた心地である。久々に研究者らしい日々を送れた意義深い半年だったと思う。このような機会を与えてくれた本学と同僚に心から感謝の意を表する次第です。スマホアプリのwechatから表示される「健康宝」(陰性証明)と「行程カード」。これがないと交通機関や商店に入れなかった。ゼロコロナ時代はあちこちに置かれたPCR検査所。12月初旬、瞬く間に撤去されていった。日本の華北占領期の研究182023年7月3日(月)

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