都留文科大学学報(第152号)
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学校教育学科 教授 平野 耕一 はじめに、このような学外研究の機会をいただいたことに感謝いたします。特に、校務等の面でお手数をおかけしました学校教育学科の先生方、諸関連のみなさまに御礼を申し上げます。 私は2022年度の一年間、東京大学のビッグバン宇宙国際研究センターにて公立大学研修員として受け入れていただき、学外研究を行いました。ビッグバン宇宙国際研究センターでは留学生が比較的多く、セミナー等は全て英語で行われていました。宇宙の初期にインフレーションと呼ばれる時期があったと言われていますが、ビッグバン宇宙国際研究センターでは、多くの研究者がこのインフレーションについて研究していました。 宇宙初期のビッグバンの前に、宇宙の急激な膨張が起こり、この時期に蓄えられたエネルギーがビッグバンの源になったと考えられています。この宇宙初期の急激な膨張をインフレーションと呼んでいます。インフレーションの時期に作られた量子揺らぎが、宇宙の全ての物質の源であると考えられており、ある意味、我々はどこから来たのかという根源的な問いについて調べていると言えると思います。 宇宙初期の指数関数的な膨張(インフレーション)は、宇宙の地平線問題,平坦性問題,モノポール問題と呼ばれる宇宙物理学の基本的な問題を解決します。インフレーションの時期に作られた量子揺らぎは、宇宙背景放射の異方性として観測される密度揺らぎの種となり、宇宙の大規模構造の源となったとされています。宇宙背景放射に刻まれた温度揺らぎは,インフレーションによる量子揺らぎの痕跡であり,インフレーションが起きたことの科学的証拠であると言えます。 インフレーションについてはまだ解明されていないことも多いですが、最近の精密な宇宙論的観測によって理論が検証できつつあります。今後は、最近話題となった重力波の観測などを用いてより精密に検証されることが期待されています。インフレーションを引き起こすメカニズムについては様々なモデルが提案されていますが、私はDブレイン、ケイラーモジュライと呼ばれるインフレーションのモデルについて検証を行い、この研究についてまとめた論文は3月末に受理されました。 宇宙の話に興味を持ってくれる人もいるので、理科に興味を持つという観点からも、この経験を教育に還元していきたいと思います。宇宙の歴史を表した図(NASA/WMAPサイエンスチームによる)宇宙の始まりについての研究19都留文科大学報 第152号
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