都留文科大学学報(第153号)
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IR室発足の背景現在は国内の多くの大学にIR室というセクションが設置されている。これらのセクションが設置された背景としては少子高齢化と大学全入時代の厳しい大学間競争がある。日本は2000年以降急速に少子高齢化が進み、18歳人口の減少から大学の学生募集は厳しさを増している。そんな時代背景の中で、大学を選択する際に学生が検討するポイントとして、「その大学では何が学べるのか?」「その学べることは自分の将来の何につながるのか?」ということは受験情報と併せて重要なポイントである。これまでの大学では大学のホームページ等でその大学の研究テーマやゼミの紹介、就職の情報などは公開されてきたが、2つの点で課題があった。まず1つめの点としては大学が発信する情報が「研究テーマ」「ゼミ紹介」「就職先情報」などそれぞれのデータが孤立しており、例えば研究テーマがどんな将来像につながっているかなどセクションを総合した情報の提供などは少なかった。2つめの点としては「~ということを学べます」という情報は多かったが、実際の学生が本当に学べているのか?という点の情報は少なかった。これらの課題などを背景に、各大学で学生がおこなっている教育研究活動や学生生活、就職実績などの実態を各大学が把握することで、不足する点などの発見につなげていくということが、各大学でIR室が設置される第一の背景となっている。第二の背景として少子高齢化社会を迎えて教育に対する公的資金の導入が少なくなり、支出先が厳しく選択される中で、多少なりとも公的資金が導入されている各大学の活動が実質的なものであるのかという社会の視点が存在する。競争的研究資金の導入と経常的な大学運営交付金の削減は、基礎研究を衰退させるなど現代では批判も見られる方針ではあるが、依然厳しい財政事情の日本国内では重要な社会の視点である。これらの社会の視点に公的資金が投入されている大学はさらされており説明責任を果たす必要性がある。大学でIR室が設置される二つ目の背景としては、この説明責任を果たすための自己点検・内部室保証システムの拡充が求められていることである。公立大学法人都留文科大学IR(Institutional Research)室の発足にあたってIR室長 日向 良和令和5年度より公立大学法人都留文科大学の理事会直下にIR室が設置され活動を開始した。都留文科大学でIR(Institutional Research)を専門におこなうセクションの設置は初めてであり、室長としても手探りの状態で業務を開始しているが、本稿では理想型としての大学IRのあり方やその目的、方向性などについて掲げ、今後の活動の指針としたい。22023年12月4日(月)

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