都留文科大学学報(第153号)
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今年度(2023年度)で、比較文化学科は創立30周年を迎える。それにあわせて学科では、記念論集『共生と記憶の比較文化論』とシンポジウムを準備中である。着任2年目でまだ右も左も分からない私ではあるが、「急速に国際化が進行するなかで、複眼的に現代世界の動きを見定め、異文化や『他者』を理解して、人権に敏感で、新しい社会構築に貢献できるような語学力のある」人づくりをめざす本学科の歩んできた30年間に、思いを巡らせないわけにはいかない(カッコ内は学科10周年記念論集『記憶の比較文化論』より)。1990年の入管法改正、ユーゴスラヴィア紛争(1991-2001年)、ルワンダ虐殺(1994年)、北アイルランド紛争の和平合意(1998年)…。「相互理解」や「共生」、「平和の創出」の本質を公立大学の立ち位置から問う本学科のスタート地点は、冷戦体制崩壊などを契機とするグローバルな社会変動と、長期不況のまだ入口にあった日本における「多様な世界」への関心の民主化の結節点でもあったのではないかと想像する。それを一過性のブームに留めず、学生と教員がともに、世界中にアンテナを張りつづけてきた30年間の知的蓄積が都留にはある。それは、日本各地での住民の人口減少と多様化の同時進行や、ウクライナをはじめ世界各地で続く戦争と暴力といった今日の課題を、歴史的経験と関連付け、比較しながら考えるうえで役立つのではないかとも思う。コロナ禍で落ち込んだ、「ここではない、どこか」への人々の関心は少しずつ回復している。しかし、地域研究には持続してやっと見えてくるものが沢山あることを、自らの限られた調査経験のなかですら痛感させられることが多い。身の回りにある世界各地との繋がりを見落としがちな日常に、少し異なる切り口をもたらすこと。きっとそこに「比文の本分」があると信じて、研究・教育に取り組みたい。都留文科大学広報委員会都留文科大学報 第153号 2023年12月4日発行吉岡 卓(委員長)・日向良和(副委員長)・佐藤明浩(担当副学長)・儀部直樹・三浦幸子・上野貴彦原 和久・堤 英俊・菊地優美・神長 唯・安富博史(企画広報担当)・大輪知穂(IR担当)有馬治子(キャリア支援センター担当)・天野麻由(企画広報担当)・奥脇開斗(企画広報担当)〒402-8555 山梨県都留市田原3-8-1☎0554-43-4341 URL:https://www.tsuru.ac.jp/編集後記比文30周年に際して比較文化学科 上野 貴彦甲州街道から日連大橋を望む(執筆者撮影)源氏物語を読むための25章新科目「公共」「公共の扉」を生かした13主題の授業事例集平和学事典河添房江・松本大 (編)2023年10月 発行武蔵野書院◇長瀬 由美 国文学科 教授東京都高等学校「倫理」「公共」研究会 (編著)2023年8月 発行清水書院◇西尾 理 地域社会学科 教授日本平和学会(編)2023年6月 発行丸善出版◇伊香 俊哉 比較文化学科 教授ぶんいだ堂

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