学報154号
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おくることば学校教育学科の卒業生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。皆さんが入学した時は、未曾有のコロナ禍であり、先輩方とはかなり違った学生生活となりました。入学した春の日、20人ずつ窓を全開にした美術棟の教室でよそよそしい雰囲気の中で説明会をしたこと。当たり前のように1405教室に学年全体で集まることができたのは、4年次春のオリエンテーションが初めてであったこと。これまでにない特別な学年として、学年団の担当者として鮮明に心に残っています。皆さんはそれらをも糧にしてこれからの生活に大きな夢を馳せているのではないでしょうか。臨床心理学者の河合隼雄は、我々人間は時に、硬直した思考に陥り単純に二者択一的になることで、一方を否定することになりがちであること。しかし、それは機械のすることであり、人間のするべきことではないと記し、人間が生きるということは、対立するかのように見える厳しさや優しさを、いかにして両立させていくかという努力を続けることであると述べています。皆さんが進むべき時代は、大きな変化が幾重にもなって押し寄せてくることになると思います。硬直することなく、大学時代に得た良き仲間の助けや自身の経験を踏まえて、良き判断、良き選択をして人生の物語を作り上げてください。皆さんのご多幸を心よりお祈り申し上げます。学校教育学科教授 水口 潔物語の続きを中学卒業時の文集に寄せられた、中学3年当時の私の担任でいらした先生のたとえ話が忘れられずにいます。とある靴の販売を営む会社が、草原が広がる海外の国に社員たちを赴任させました。そこはまだ文明が進んでおらず、人々は裸足で生活をしています。ある社員は「こんなところでは、靴が売れるはずがない」と大きく落胆してしまいました。しかし、ほかのある社員は「みんな靴を履いていないので、これはビジネスチャンスだ」と考えました。あなたはどちらの人間ですか。そう問われ、今もなお、私の中で問われ続けています。置かれた環境や襲いかかってきた環境は変えられないかもしれない。でも考え方一つで自身の行動もその未来も私たちの未来も変わっていく。みなさんが入学された年に、コロナという未曾有の災害が世界を襲いました。息苦しい時間を過ごさざるを得なかったみなさんも多かったことでしょう。コロナが過ぎ去っても毎日のように、戦争や災害など凄惨な報道が各地から届きます。みなさんは4月から、今度はこれまで学んできたことを実践に移していく番です。そして、みなさんが社会の主役になっていく番です。どうぞみなさんが暮らしやすい社会に塗り替えていってください。逆境であってもチャンスに変えていく、そんなことを軽々とできる可能性をみなさんは秘めています。私たち大人はその姿を見てサポートを惜しみません。どうぞ自信を持って社会で活躍されてください。ご卒業、ご修了、おめでとうございます。地域社会学科教授鈴木 健大草原の靴屋13都留文科大学報 第154号
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