大学報155
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都留文に着任してから10年目となる2023年度の一年間、研究に専念できる本当に幸せな時間をいただきました。大学、学科の先生方のご理解、ご協力には心から感謝しております。このサバティカルで私はかねてからの三つの夢を実現することが出来ました。ひとつは自分で企画をした論集の出版です。幸いにも豪華な執筆陣に恵まれ、神戸大の中村麻美先生には共編著者としてお力添えいただき、年末、水声社から『マーガレット・アトウッド『侍女の物語』を読む――フェミニスト・ディストピアを越えて』を上梓することが出来ました。『侍女の物語』の舞台であり、アトウッド自身も学んだハーバード大学で行われた世界文学研究所の夏期セミナーに参加し、教授陣、若手研究者たちと過ごした時間、ワイドナー図書館でのリサーチは、本書の仕上げに不可欠なものとなりました。もうひとつは英国での拙論の出版です。日本生まれの英国人作家カズオ・イシグロについての論集、Japanese Perspectives on Kazuo Ishiguroに執筆する機会を得て、今年に入って英国Palgrave Macmillanから出版されました。テキサス大学オースティン校ハリー・ランサム・センターにあるイシグロのアーカイブで発掘したTVドキュメンタリー映画の企画書「ゴースト・プロジェクト」の内容を紹介するとともに、映画制作が実現に至らなかった背景を探りました。三つ目は海外での研究生活です。私は英文学を研究しながらも、ライフ・ワークバランスを取るなかで、留学のチャンスを逸してまいりました。それがこの度、ニューヨーク市立大学クィーンズ・カレッジに客員研究員として在籍し、教員や学生と交流しながら、大学図書館やNY公立図書館だけでなく、イェール大学での講演会やコロンビア、テキサス大学でのリサーチ、ワシントンD.C.のスミソニアン博物館国立アジア美術館の資料室にも足を運ぶことが出来、充実した「夢」のニューヨークでの研究生活が実現いたしました。そして迎えた新学期、クィーンズ・カレッジの日本文学研究者ジョシュア・ロジャース教授の日本文学の授業と私の英文学のゼミとをオンラインで繋ぎ、映画を通して「戦争」について多角的に学ぶCOIL(Collaborative Online International Learning)という授業を実践しました。日米の55名が、オンラインで一緒に授業を受け、映画の感想をグループLINEに投稿、8つのグループに分かれ、共同して二つの戦争映画についてのプレゼンを作り上げる――新たな挑戦に皆が嬉々として取り組んでくれたことを大変嬉しく思っています。サバティカルで広がった私のネットワークを、今後、学生たちがさらに広げていってくれたらと願っています。カズオ・イシグロのアーカイブのあるテキサス大学ハリー・ランサム・センターハーバード大学世界文学セミナーにてボストン、ニューヨーク、テキサスでの在外研究を終えて英文学科 教授 加藤 めぐみ学外研究報告162024年7月8日(月)

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