学報156-1
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講演会だより 2024年7月20日(土)に愛知教育大学特別教授丹藤博文先生をお招きし、令和6年度都留文科大学国語国文学会講演会を開催した。今年度から講演会は年1回の開催となり、今回は国語教育学に関する講演会となった。丹藤先生と都留文科大学は浅からぬ縁でつながっている。関口安義先生、田中実先生、鶴田清司先生、牛山恵先生など、国語教育界の旗頭ともいうべき先生方が本学においでだったが、教室の主体を読者に置く、そこにどんな授業があるのか、「読む」とはどういうことなのか、それを追究してきた先生方の中に丹藤先生もいらしていた。丹藤先生は近著『文学教育における読書行為の研究』のなかで、戦後文学教育を読書行為論の視点から批判的に検討し、言語論的転回以後の読書行為論の理論と方法を構築されている。そして、文学教材をナラティヴ・メソッドによって分析していくことで、文学教育の可能性を追究されている。講演会のなかでは、工業高校や定時制高校教員のころの生徒の厳しい反応と先輩教員からの「元文学青年ならこの生徒たちに文学を教えろ」という言葉が教育の視点から文学を見てみようと研究の道に入ったというお話が印象的だった。 今回の講演会では「行為への誘い―文学教育の過去と未来―」をテーマに80分にわたって『走れメロス』の教材を取り上げながらお話しいただいた。戦後文学教育の平たんではなかった道のりを概観をお示しになった。そして、教科書に載っている教材は主題を押し付けて読ませるものではなく、批判的な生徒の声は「読めていない」わけではない、教師自身が読みをもち教材の価値を見極めることが大事であるとの示唆があった。最後に、文学教育は個人の内面に働きかけて個人を励ましていくものであり、そこに文学教育の未来があるとの言葉をいただいた。 実利を求める時代の趨勢の中で、よりよく生きることを私たちは求めているのではないか。「もっと文学を」というメッセージを温めていきたい。(国文学科特任教授 田中 均)行為への誘い ―文学教育の過去と未来―都留文科大学国語国文学会 講演会講師紹介開 催 7月20日(土)  講演者 丹藤博文氏19都留文科大学報 第156号

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