学報157
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おくることば 修士課程修了おめでとうございます。 過去に私はある方の語る人生論を拝聴する機会がありました。その時のメモの中からその内容の一部をご紹介します。「例えばアコヤ貝という貝は、貝の中に砂や小石などの異物が入ると苦しみます。しかしやがてアコヤ貝は、そうした異物を自らの粘液によってくるみ、固めて、見事な美しい真珠にします。なんとも言えない気品ある美しさを持つ真珠は、外からは何の欠点も無いように見えます。しかしアコヤ貝が見事な真珠を作り上げるためには『砂や小石が入ってアコヤ貝が苦しんだ』という事実が確かにあったのです。これと同様に私たちは人生という旅路において、時に登り坂を上り、時に降り坂を下り、何度も苦しみや悲しみを経験します。そうやって人は、人知れず涙を流したり汗をかいたりすることで、より優しくなり、より勇ましくなり、真珠のような『徳』というものを築き上げていくことができるのです。私たちの魂は試練を通して磨かれていくのです」。このアコヤ貝の喩え話は、修論を書き上げた皆さんにも当てはまります。皆さんは先生や学友に支えられながら授業や研究に、そして修論完成に向けて必死に取り組まれました。その過程は必ずしも万事順調というわけではなかったでしょう。とりわけ修論作成には、アコヤ貝が経験するような生みの苦しみが常に伴ったことでしょう。けれども、その分、皆さんと修論は真珠のようにきっと美しい輝きを放っていることでしょう。 ご卒業おめでとうございます。 皆さんが入学した頃はまだコロナ禍の影響が色濃く、不安を抱えながらのスタートだったことでしょう。国際教育学科の特徴である欧州留学はできたものの、それまでの常識の全てが通用するわけではない中で、手探りで進めたことと思います。ですが、皆さんの旺盛な好奇心や積極性が原動力となり、世界史上の未曾有の事態をも乗り越え、無事に卒業に至ったことは本当に素晴らしい。 IBの教育目標の一つにLifelong Learnerの育成があります。大学卒業による学士号が最終学位になる人は今のところ多くいるはずですが、では学校、大学を卒業しても考え続け、学び続けるLifelong Learnerであるための秘訣は何でしょう? 人類の学問の歴史を古代から追いかけている私は、それが、文字を読んで言葉を入れることである、と断言できます。人間個人の経験体験だけで得られる知には限界があり、第一言葉がなければ個人の体験を言語化して時空を超えて他者に伝えることすらできません。物事は全て単体かつ目に見える形で存在するとは限らず、相互の関係性、関連性を読み解くには言語の幅が必須です。しかも、古今東西、文字というのは鍛えないと読めるようにはならないし、読まなくなれば悲しいくらい力が落ちます。 皆さん自身もこれから世界へと羽ばたくにあたり、いつでもどこでも、生涯考え、何かを学び続けるLifelong Learnerであるために、これからも幅広く読み続け、読みの能力を鍛え続けて欲しい。国際教育学科を卒業する皆さんであればきっとできるはずですよ。大学院文学研究科 英語英米文学専攻教授 儀部 直樹国際教育学科講師前島 礼子アコヤ貝の苦しみLifelong Learnerへ!142025年3月10日(月)

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