学報157
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旅立つことば 教師になる自信がない、その思いが大学院進学の最大の理由でした。それは「遠回り」とも言える選択だったのかもしれません。「遠回り」という言葉には、どこか逃げ道のような響きがありますが、私にとってその道は、想像以上にでこぼこで、時には自ら乗り込んだはずのバスから降りたいような気持ちに駆られることもありました。バスの窓から見える景色には、教育の希望も絶望も映り込んでいました。言葉には代えられない景色に出会うたびに、自分の無知や無力さに直面し、葛藤する日々を重ねました。それでも、異なる背景を持ちながらも同じ志を追い求める心強い同期や、教育に向き合い続ける先生方と共に、少しずつ、しかし着実に希望を紡いできました。 そして今、そのバスに揺られる時間が終わろうとしています。これからは、子どもたちを導くと同時に、共に学び、成長していきます。 最後に、遠回りを受け入れてくれた両親、より良い道標を示してくださった先生方、そして一緒にたくさんの寄り道をしてくれた同期に、心から感謝を伝えたいと思います。同期の二人へ―これからは別々のバスに乗るけれど、それぞれが見た景色を語り合って、また沢山寄り道しようね。 学部を卒業した38年前、当時卒業生のほとんどが教職につく中、私は一般企業へ就職しました。会社員としては海外勤務や単身赴任・転職も経験しました。この間に三人の子どもと一つの会社を産み育てました。現在は静岡県焼津市の中学校において外国につながる子どもたちの日本語支援員として働いています。大学院で学ぼうと思ったのは、コロナ禍が落ち着き、うまくいかないいろいろなことを、もうコロナのせいにはできなくなったと悟ったからです。 週2回、高速で片道2時間の通学は体力的にハードでしたが学ぶことがいかに贅沢なことかを実感できる時間でもありました。 この二年間で「日本語教育能力検定試験」と、国家資格となる「日本語教員試験」に合格しました。通学途中にはうどん屋さんに立ち寄り「吉田のうどんマイスター」にも認定されました。Amazonでの書籍購入額は約60万円、体重はどういうわけか5kgほど増加しました。 学部時代には考えもしなかった「学ぶよろこび」に満ちた二年間でした。再び学ぶ機会を与えてくださった都留の先生方と家族に感謝を伝えたいと思います。本当にありがとうございました。大学院文学研究科 臨床教育実践学専攻高橋 志緒大学院文学研究科 比較文化専攻 村松 由香子バスに揺られて修了にあたって吉田のうん院生室の窓から19都留文科大学報 第157号

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