学報157
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講演会だより日本が敗戦し民主主義国家に生まれ変わってからおよそ80年。 国際情勢を鑑みると、この国も再び戦場になるのではないかという懸念は拭えない。そんな2024年春、加藤めぐみ教授とJoshua Rogers教授(ニューヨーク市立大学クイーンズ校)が立ち上げたのが、ICTを用いて日米の学生を繋ぎ、協同学習を通して問題解決に取り組むCOIL(Collaborate Online International Learning)プロジェクトである。学生たちはグループを作り、日米双方の視点で制作された戦争映画を通して戦争と平和について考えをまとめ、発表を行なった。罪のない人々が国に翻弄され、人間としての尊厳や生活基盤を失い、深い孤独や悲しみ、苦痛に苛まれ追い詰められていく。本来の彼らの人間性が戦争によって崩壊していく様を描いたそれらの作品から、正義同士の争いである戦争は何も生み出さないということを私たちは痛感した。(青木)そして7月9日、Joshua教授が来日し本学を訪問された際の特別講演では、文学の持つ3つの力についてお話をいただいた。その3つとは、文学は私たちのあらゆる「境界」を越える助けになること、また私たちをいかようにも「分断」し、一方で連帯への「力を与える」こと、そして文化や社会、歴史理解への一助となることである。教授の生い立ちと、日本文学に自身が救われた経験について聞いているとき、それぞれ違う境遇に育った学生たちの多くが頷き、共感を示していた。文学について語るいまこの場に、まさにその力が表れているように感じた。COILで第二次世界大戦を様々な側面から考察したことも踏まえ、戦争がただの教科書の内容とは言えなくなってきた今日、私たちが文学を学ぶ理由はなんだろうか。文学に触れることで得たもの、手放したもの、そしてこれから出会うものを見過ごしてしまわないよう、文学と地続きのこの日常を見据えていきたい。(内谷)(英文学科4年 青木聖奈・内谷桃花)講師紹介Joshua Rogers教授東京大学で学位を取得したのち、コロンビア大学大学院で日本文学の博士号を取得。2021年から現在においてはニューヨーク市立大学クイーンズ校にて日本文学と映画を教えるかたわら、20世紀初頭の科学と宗教が日本の文学、哲学、政治にどのような影響を及ぼしたかを研究している。都留文科大学英文学会・加藤めぐみゼミ共催国境を越えて-文学のその先にあるもの開 催:7月9日(水) 講演者:Joshua Rogers氏37都留文科大学報 第157号
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