学報157
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講演会だより弊学比較文化学会では、昨年度から技能実習生をテーマとした講演会を開催してきた。今回はその一環として、技能実習生を題材とした映画『海辺の彼女たち』の上映会と、同映画のプロデューサーである渡邉一孝氏による講演会を実施した。講演会では、『海辺の彼女たち』の製作裏も踏まえつつ、映画の成り立ちや、映画の役割などについてお話をいただいた。講演ではまず、映画の一生について語られた。企画開発から始まり、製作、上映、そして最終的な消滅までの過程が説明された。この過程は人生に例えられ、作品を持ち続ける責任と意義が強調された。続いて、インディペンデント映画と商業映画の違いについて触れられた。渡邉氏によれば、インディペンデント映画とは、誰にも依頼されていない自発的な映画であり、商業映画とは、マーケットの論理に基づく映画であるという。これらの関係性は対立するものではなく、しばしば両立しうるものであるという。渡邉氏自身は、この関係性の中で企画の出発点を市場ではなく自発性に置き、現実世界で起こりうる物語を題材とした「社会に近い映画」の制作を心がけてきたという。自身の作品『海辺の彼女たち』については、ミャンマー人技能実習生のSOSへの無力感が制作の契機となったことが明かされた。この作品は、既存のメディアでは伝えにくい世界や心情を描いた点や、2020年頃の社会を「ピン留め」(記録・保存)した点などに意義があったのでないかと述べられた。加えて、映画館は異なる立場や人種の人々が集う場となり、彼らのフィードバックから、立場が違えども皆似たような感想を持っていたという現実が浮き彫りになったとも述べられた。講演の締めくくりでは、映画製作は現在の責任だけでなく、将来の責任も担うものだと述べられた。また、若い世代へのメッセージとして、「世界の複雑性に寄り掛かること」の重要性を説き、予想を裏切られる経験の積み重ねが新たな視界を開くと語った。(比較文化学科2年 田中拓実)都留文科大学比較文化学科・比較文化学会主催講演会映画を通じて社会とつながる開 催:10月23日(水) 講演者:渡邉 一孝 氏講師紹介渡邉 一孝(わたなべ かずたか)配給会社、俳優事務所、映画祭のスタッフを経て、日英翻訳のコーディネートや字幕制作、自主映画の制作を行う。2014年に映画の企画から配給・セールス及び翻訳字幕制作を行う株式会社E.x.N(エクスン)を設立。山形国際ドキュメンタリー映画祭ラフカット部門プログラムコーディネーター。映像を観て対話する「見たことないモノを観てみる会」主宰。39都留文科大学報 第157号
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