学報157
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講演会だより本講演「カマラ・ハリスを読む」では、2024年のアメリカ大統領選挙に出馬したカマラ・ハリスの出自をめぐり、選挙期間に交わされた数々のジェンダーと人種に関する言説に注目した多角的な解説があり、アメリカでの現象にとどまらない人種とジェンダーの交差の歴史を考え直す有意義な時間となった。講演ではまず、ハリスがD.E.I.候補(“Diversity, Equity, Inclusion”の略称)とみなされていたことに触れ、D.E.I.運動の今日までの歴史と反D.E.I.のレトリックなどについて詳しい解説がなされた。さらに選挙期間中にハリス自身に対する言説の中でキーワードとなった「キャット・レディ」や「ガラスの天井」について言及があり、特に「ガラスの天井」という言葉については2016年の大統領選と比較した。アメリカだけでなく、日本でアメリカ大統領選を「ガラスの天井」を用いて報じる際、いかにステレオタイプのイメージが使われたかについても説明があった。またハリスが選挙運動中特に人工妊娠中絶に対して熱を持って言及・政策提案を掲げたことに注目し、人工妊娠中絶というトピックを政治化することの多面性、ハリスの選挙方針の限界点を考察した。女性大統領選出は女性票の獲得にかかっていたが、依然として保守派の女性は堅く、男性票が少ないことも作用して今回の結果に至った。また選挙に際し、ハリスは自らを黒人として宣伝した。元大統領のバラク・オバマも黒人の個性を前面に出して大統領選に臨んだので、彼女もまた、戦略として黒人の立場をとったと見られる。しかし黒人も一丸とならない理由として、黒人男性からの支持に歴史的な観点から注目した。人種差別が公然と行われていた時代、イニシアチブをとったのは黒人女性だった。彼女たちは男性同様に肉体労働を強いられるほか、乳母や家政婦としても活躍した。しかし公民権運動後、女性優位への黒人男性の不満は表面化され、トランプ陣営はこれを巧みに利用した。2024年のアメリカ大統領選は、存在の政治の重要性を浮き彫りにした。この講演は、多様性とは何か、多様性規範批判の問題点は何かを考える機会になった。国際教育学科講師 前島礼子国際教育学科3年 佐藤美桜 鈴木陽佳講師紹介松本 悠子講師の松本悠子先生は中央大学名誉教授。京都大学文学研究科西洋史学専攻にて博士(文学)取得。専門は近現代アメリカ史。特にジェンダー、人種の問題に取り組む研究を多く発表しており、2024年には単著『戦場に忘れられた人々: 人種とジェンダーの大戦史』を京都大学学術出版会から出版している。ジェンダー研究プログラム運営委員会主催カマラ・ハリスをめぐる言説から見えるアメリカと世界の現在と過去開 催:11月20日(水)  講演者:松本 悠子氏41都留文科大学報 第157号

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