学報157
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さよなら文大不思議な大学、不思議な地域、とても不思議で暖かな20年でした。研究室 静かな別荘地の隠れ家20年前、1号館2階の片隅に『臨床教育学系(当時)』の新設に伴って、大きな教室を改装して3つの研究室が作られました。廊下の扉を開けて靴を脱ぎ、またその奥の扉を開けると、「広い!」と誰もが思わず口にする、ほんとうに広く静かで贅沢な空間です。この環境に守られて、さまざまなことを考えることができたように思います。その「隠れ家」が20年の時を経て、1号館改修に伴いここで取り壊されることに、なんだか感慨深いものがあります。卒論 自分の生き方のキーワード探しこの部屋で、3年生後期年明けから卒論準備が始まります。最初の課題は、キーワード探し。自分は何を考えたいんだろう。何にこだわって生きているんだろう。そう問いかけた時浮かんでくる、自分のキーワードを探します。それを卒論のテーマと重ねながら1年間大切に温めていくと、その言葉のもっと奥にあったものに繋がったり、漠然としていた言葉の焦点が絞られて腑に落ちるものになっていったりします。1年をかけて形になった卒論は、その「見かけ」以上に、自分が大切にするものが何なのかを一生懸命探し求めた大切な作品です。 「卒論は、心の中でこれからも書き続けられる。何十年もたって、本当のキーワードにたどり着くかもしれない。卒論はその入り口だから、楽しみにしていてね」と、卒論発表会の最後に伝えています。地域 つながりの網目のなかにこの部屋の窓際に作ったささやかな相談室もどきの一角で、先生方、子どもや親御さん、地域の支援者のみなさんとたくさんお話を積み重ねてきました。学校に伺ったときは、「SATの先生の先生だよ」と紹介していただき、子どもたちや先生方と関わりを持たせていただきました。一人の子どもさんを巡って、さまざまな方々と知恵をだし悩み合いました。そんな時、まるでこの「都留」という町の中に、目に見えない細かなつながりの網目が張り巡らされているかのように感じられました。時々「私は、部外者なのかな」と思うほどそのつながりは強く重層的で、でもふと気づくとみなさんの輪の中で安心している自分がいる、そんな体験をいくつもさせていただきました。 先日、10年を超えるお付き合いのお母さんと、最後の面談でした。紹介してくださった当時の校長先生、悩みあった福祉の方々、歴代担任のお名前を一緒に懐かしみながら、お母さんも子どもたちも、これからもしっかり「都留」に支えられていくんだなあと、しみじみした思いでお別れしました。貴重な体験をさせていただいたことに感謝しながら、進化する都留の中で「良い伝統」が引き継がれていくことを願っています。不思議で暖かな時を過ごして学校教育学科教授 筒井 潤子12月・卒論完成に向けて、エネルギーチャージ!9都留文科大学報 第157号
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