学報158号
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 教養学部学校教育学科に社会科教育学担当として着任しました、小川輝光と申します。これまで20年間中学高校の教育現場で社会科を教えてきました。その一方で、歴史教育を中心とした研究活動もおこなってきました。 最も長く取り組んでいるテーマが、高度成長期に起きた公害である水俣病をいかに学ぶかということです。社会科の教科書では必ず出てくるできごとですが、過去のできごとのように感じます。しかし、現在も被害の全貌がわからず、患者さんの生活もあります。終わらない現在の水俣病と、学校で学ぶ歴史としての水俣病を、いかにつないで学ぶことができるか検討し、授業や教材をつくってきました。 このような地域のなかの歴史を教材にすることで、普遍的な問題を考え、私とは異なる他者と出会える学びを目指しています。私が生活の拠点を置いている神奈川には世界とつながるさまざまな文化や歴史があります。都留市にも、これまで約15年訪れていますが、まだまだ知らないことがたくさんあります。学生のみなさんとともに、地域に教材を探し、地域の魅力を発見したいと思っています。 とりわけ、今年は戦後80年です。薄れゆく戦争の記憶を継承するとともに、現在だからできる学びの実現を目指したいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。 Muraho?(ムラホ)アフリカのルワンダ語の挨拶です。私は1994年にルワンダで起こったジェノサイド(集団殺害)を研究しています。同じ村に暮らす被害者と加害者がどのように関わり合って暮らし、ジェノサイドの賠償に取り組んでいるのかを明らかにしてきました。複数の村に住み込み被害者と加害者に直接聞き取り調査を行い、首都キガリ市の警察署本部に保管されている裁判記録と照合する研究手法をとっています。 これまでの研究は新著『ルワンダのガチャチャ裁判:ジェノサイドの被害者と加害者の賠償をめぐる対話』にまとめました。この学報の裏表紙「ぶんだい堂」で紹介されています。 担当する授業は「戦争・平和論」や「現代世界とジェノサイド」などです。アフリカ地域や現在起こっている紛争終結後の社会において、人々が和解や賠償問題にどのように取り組むのかをみます。 最後に、私は山を眺めるのが好きで、山に囲まれたこの大学を気に入っています。鳥のさえずりや湿った土の匂いがルワンダの調査地の村と似ています。3月に都留アルプスハイキングに参加し、西願寺のしだれ桜を眺め、黄色く丸っこいミツマタの群生地を通り3時間かけて山中を歩き、芭蕉ゆかりの田原の滝に下りてきました。このような自然豊かな地で皆さんと学べることを嬉しく思います。クリスマスの礼拝で叩く太鼓の牛皮を火で乾かす(2015年12月24日、ルワンダ調査地にて筆者撮影)水俣市茂道の漁港を出港する船比較文化学科 講師片山 夏紀学校教育学科 准教授小川 輝光紛争後の平和構築地域とともにある社会科をめざして文大に着任するにあたって142025年7月7日(月)

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