学報158号
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筑波大学システム情報系の委託研究員として1年間、感情表現ができる人型AIロボットに関する研究を行ってきました。AIというと情報工学の分野と思われがちですが、使われる情報は文科系を含む他分野の情報が多いのです。先日、情報学研究所の北本朝展さんとAIを使った日本文化の解析について話をしました。情報学研究所では、国文学研究資料館と共同で約30万点の古典籍をデジタル化して、さらにAIに深層学習させてくずし字認識手法KuroNetを開発しているそうです。日本文化をAIとデータから読み解くのです。私は、言語学や社会心理学の成果を利用して、人の心が理解できて、自ら感情表現ができる人型AIロボットの開発を行っています(現在、3つの科学研究費研究の代表者もしくは分担者として研究を進めています)。最も優れた感情表現として評価されている人形浄瑠璃から得られたビッグデータをAIに深層学習させています。そして、ノーベル賞を受賞した行動経済学に基づくNudge theoryやprospect theoryを活用して解析しています。Nudge theoryは、個人や集団に強制を伴わずに望ましい行動を取らせる理論で、prospect theoryは、確率に対する人の反応が線形でないことを示す理論です。どちらもコミュニケーション技術に応用が可能でした。本研究の最終目標は、高齢者や医療現場を支えるジャパンスタイルのホームロボット開発です。研究メンバーには本学元非常勤講師の井伊菜穂子さん(琉球大学准教授)や卒業生の江澤実紀さん(東京外大大学院博士後期課程)も加わっています(図1)。江澤さんと井伊さんは、来年度の国際会議発表を目指して研究を進めています。私は、今年度、Natureブランドの国際誌に2編投稿予定です。以前発表した私の研究ですが、昨年度、国際誌8編に引用されました。院生時代、恩師から、論文は英語で書かないと日本言語学の国際的地位は上がらないと言われてきました。当時は、国内で評価されれば、それでいいと思っていましたが、最近になって恩師のことばの意味がわかりかけてきました。図1に写っていないメンバーを含めて、本研究には、全国から12名の研究者が参加しています。まだ意匠登録前なので掲載できるのは頭部の画像のみですが(図2)、今年(2025年)8月には、研究記者会見を都内の市ヶ谷で実施する予定です。そのときは、ロボットの全身に外装が施され、衣装が着せられます。研究はそれ自体で意味があるとも言えるのですが、私は、できるだけ社会に貢献できる研究を目指しています。末筆ながら、学外研究の機会を与えてくださった方々に感謝申し上げます。図1 日米共同制作英語劇『AKUTAGAWA』上演会場にて、研究メンバーとトム・リーさん図2 人形浄瑠璃の所作と人の感情を深層学習したAI人型ロボットの頭部国文学科 教授 早野 慎吾社会に貢献する言語研究を目指して学外研究報告182025年7月7日(月)

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