学報158号
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 この投稿内容からすぐに想像されるのは、自分で判例を調べることをせずに、生成系AIに頼ってレポートを書いた学生たちがいたのだろう、ということです。そして、この投稿は、いろいろなことを教えてくれます。 第一に、生成系AIは嘘をつくことがあり、存在しない文献や情報を実在するかのように提示してくることがあります。これを見破るには、人間の側に一定水準の知識や知見が必要です。 第二に、自分自身で調査して確認したインプット、自分の頭を使って思考したアウトプットでなければ、自分の学びにはなりません。現代社会においてネット検索や生成系AIを使いこなすスキルは必要ですが、それによって得られた情報や成果物を自分の頭で検証する過程を経ることがさらに必要です。自分の頭で判断してはじめて、有効なインプット・アウトプットになるということです。 第三に、判例の存在が確認できないのは学生が生成系AIに頼ってレポートを書いたからであろうと推測しても、その推測が99%当たっていると思われる場合でも、残りの1%、自分が当該の判例を見つけられずにいるのかもしれない、と自分の能力を疑ってみる、生成系AIだという自分の判断を客観的・批判的に検討することの重要性です。それこそが学問をするということであり、学問に対する誠実さです。 卒業論文の話に戻りましょう。卒業論文を書くというのは、自分自身で設定した課題に対して、調査や検証を重ね、根拠を示しながら自分の主張を書き記すという作業です。卒業論文のためには、外国語や古語といった言語を修得したり、一次資料となる文献を読み解く力や調査の方法、集めたデータを分析する力を身につけることが必要になります。時間や労力をかけて、それらの能力を自分で獲得していかなくてはなりません。そして、文章を書くということは、思考するということです。人は頭の中で言葉を使って考えています。しかし、それをそのまま文字にしても、多くの場合、文章にはなりません。頭の中の考えを、適切な語句や表現を選び、説得力のある論理構成を立てて文章化する努力を通して、自分の思考が鍛えられます。文章化の過程で、自分自身で集めた知識や情報の正確性が検証され、自分の偏見や先入観を排した、誠実で論理的な思考が組み立てられていくのです。 卒業論文の執筆は、4年間の学びの集大成であり、課題発見力、情報収集力、分析力、論理的思考力を鍛え上げます。それは、みなさんが、急激に変化する社会、予測不可能な時代を生き抜く力となり、よりよい未来をつくるための哲学となります。文科大学で人文学を学ぶ意義はそこにあります。 都留文科大学にはみなさんを成長させるすぐれたカリキュラムがあります。知識の宝庫である立派な図書館があります。「都留ヒューマニティーズセンター(THMC)」では、ICT教育、DX(デジタルトランスフォーメーション)教育を推進し、文系理系の枠を越えた学びを実践しています。また、今月29日には、大学70周年記念として「つるフィールド・ミュージアム」がオープンし、地域と連携した実践的な学びの場が増えます。さらに言えば、皆さんの学びの場は校舎や大学キャンパスの敷地にとどまりません。この都留の地全体がみなさんの大学であり、学びの場です。この学びの場を活用して、自分自身で、自分の頭を使って、最大限のインプット・アウトプットをしていきましょう。 本学の学訓は「菁莪育才(せいがいくさい)」です。これは中国の四書五経の一つである『詩経』の言葉によるものです。「せいが」は青々と茂るつのよもぎ、「育才」はすぐれた人物の育成を楽しむことを意味し、「つのよもぎが勢いよく成長するように学生が成長して欲しい」との願いが込められています。都留文科大学はみなさんが勢いよく成長するための場です。 みなさんの本学での学びが、豊かなものとなることを心から願っています。3都留文科大学報 第158号

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